217.『…眩しくて』

[ ‘11のクリスマスSSです。ブラは5〜6歳。世間一般のお父さんとはちょっと違う

父親に対して物申す!みたいなのが書きたかったのでした。]

12月24日。  

クリスマスイブの その日は二学期の終業式であり、ブラとパンの通う幼稚園でも、

年内最後の登園日だ。

ブルマは一昨日から、泊まりがけの仕事に出ている。 

終わり次第帰宅できるということだから、そう遅くはならないだろう。

だが 時間がはっきりしなかったため やむを得ず、ベジータがブラを迎えに行くことになった。

 

いつものように園庭で、ブラはパンと遊んでいる。

「おい、帰るぞ。」 

「えーっ。 ママは まだなんでしょ、つまんない。 わたし、もう少し遊んでいきたい。」

ちょうど その時、パンを迎えに チチが やってきた。 

「じゃあ ちょっとだけ、うちに寄っていくか?」

 

ブルマに連絡をとってみるし、どちらにしても 夕方、ちゃんと送らせる。

そう申し出たのだが ベジータは帰らず、苦虫を噛み潰したような顔で ついて来た。

が、家の中には入らない。 近くの山で体を動かし、時間を潰そうというのだろう。

飛び去る彼を見送りながら、チチがひとりごちる。 

「お手柔らかに頼むだよ。」

山は修行の場であると同時に、食材の宝庫でもある。 

勢い余って吹き飛ばされては、非常に困るのだ。

「悟空さが いてくれればな。 そしたらベジータも、退屈することはなかったんだが。」

しかし、それは それで…。 

山が一つ消えるだけでは済まなかったかもしれない。

 

ともあれ、ブラはパンと一緒に、家の中で楽しく過ごした。

女の子とはいえ、舞空術を楽々こなせる二人だ。 

うかつに外に出してしまえば、どこへ飛んでいくやら わかったものではない。

だから こういう時には、おやつ作りを手伝わせる。 

今日はクリスマスイブだ。 ケーキは後で食べるだろうからと、プリンにしてみた。

とても きれいに蒸し上がり、幼女二人は歓声を上げる。 

「おいしそう!」

ブラが、スプーンを口に運びながら訴える。 

「ママが よく、ホテルのケーキ屋さんのを買ってきてくれるの。

でも、それより おいしい。 すごいわ!」

10年と少し前、同じようなセリフを聞いた。 

そのことを思い出し、チチも笑顔になった。

 

そうこうしているうちに、ベジータが戻ってきた。 娘に向かって声をかける。 

「もう気が済んだだろう。 帰るぞ。」

「えー、まだ遊びたいのに。」 

「さっき、ブルマさに電話してみただよ。 留守電を聞いたら、こっちに来てくれると思うが…。」

そんな やりとりの中、パンが口を開いた。 

「じゃあ、DVDを一つだけ観よう。」

彼女なりの折衷案。 手にしているのは 昨年贈られた、クリスマスをテーマにしたアニメだ。 

実は もう、何度か観せてもらっている。

「うーん、だったら わたし、こっちが観たい。」 

そう言って、ブラが指したDVD。 

それはパンの両親である、悟飯とビーデルの結婚式の一日が収められた物だった。

 

こちらだって、何度も観せてもらっている。 だが ブラは 全く飽きていない。 

身を乗り出し、真剣な表情で見入っている。

苛立ちを隠しきれないベジータに、フォローのつもりでチチが説明する。

「女の子は、裾の長いドレスが好きだからな。 

それに、知り合いが いっぱい出てくるから面白いんだべ。」

 

ブラが、大きなため息をつく。 

「いいなあ、パンちゃんは。 うちには どうして、こういうのが無いのかしら。」

「でも、写真はちゃんとあるじゃない。」 

C.C.の居間に飾ってある、ウェディングフォトのことだ。

「んだ。 あれは良い写真だ。 おらはC.C.に行ったら必ず、見せてもらうことにしてるだよ。」

「そうだけど、あれにはお客さんが写ってないもん。」

・・・

もう少し幼かった頃は、自分の姿がないことに不満を漏らしていた。

だが 今のブラは、両親が ちゃんと式を挙げていないことに気付いている。

 

「ねえ、パパ、どうしてなの。 どうして指輪をはめてあげたり、みんなの前でチュッてしなかったの。」

「…。 必要ないからだ。」 

「どうして?」

「わざわざ、周りに知らしめる必要などない。 そんなことをしなくたって、あいつは俺の…、」 

妻なんだ。

間をおいて、幾分 小声で付け加えた。

「あいつって?」 

食い下がる娘に うるさそうに、しかし はっきりとベジータは答える。

「決まっているだろう、 おまえの母親だ。」

 

「… それって、いつから?」  

「しつこいぞ、いい加減にしろ。 ずっと、前からだ!!」

言い切ってから、彼は気付いた。 今の問いかけが、娘からではなかったことに。

仕事を終えたブルマが、留守電のメッセージを聞いて やって来たのだ。

 

「ママあ、おかえり!!」 ブラが、うれしそうに駆け寄る。

一方、「都合がつくのなら 俺に頼むな。 これからは自分で どうにかしろ!」 

捨て台詞を残してベジータは出て行き、あっという間に飛び去ってしまった。

「ふふっ、紅い顔しちゃって。 まったく、いつまで経っても…。」

しみじみとひとりごちながら、ブルマはDVDの片づけを手伝う。 

そして また、誰にともなく つぶやいた。

「いいもんよね、結婚式って。」

「んだ。 ブラちゃんも見たがってることだし、改めて挙げたらどうだ?」 

「うん、そう思うんだけどね、」

ベジータがなあ。 ねえ。 ・・・ 

チチとブルマは、ほぼ同時にぼやいた。

 

少しの間 考えて、チチは新たな提案をする。 

「内緒で準備して、誰かの結婚式の時に便乗させてもらうってのはどうだ?」

「そうねえ。 でも、次に結婚するっていうと、悟天くんかトランクス? 

考えてみれば もう、それほど先の話じゃないのね。」

孫家の長男である悟飯は、大学を出て すぐに家庭を持った。 そのことを、思い浮かべたのだ。

「あと4〜5年ってこと? 早いもんね…。」

「ダメよ!!」  ブラが いきなり、割って入った。 

「あと4〜5年なんて、わたしもパンちゃんも まだ小学生じゃない。 そんなの、絶対ダメ!!」

「あらあら、おませちゃんね。」  

笑い合うチチとブルマを尻目に、滔々とブラは続ける。

「10年でも まだ早いわね。 やっぱり、ちゃんと勉強もしなきゃ。 

何にも知らない奥さんじゃ困るもの…。 と すると、あと15年くらいかしら? ねっ、パンちゃん。」

「わ、わたし 知らない。 わかんない …。」  

パンは頬を赤らめて、チチの後ろに隠れてしまった。

 

娘にコートを着せながら、ブルマは別の話題を切り出す。 

「ところでさ、クリスマスだっていうのに、孫くんは帰ってこないの?」

もう、二年程前のことだ。 

天下一武道会の日、悪いブウの生まれ変わりだという子供とともに、南へ旅立ってしまった。

「さあ、どうだべ。 ひょっとすると、クリスマスなんか知らないかもしれねえな…。」

「そんなことないわよ!!」 

今度はパンが、割って入る番だ。

「この間 わたし、ちゃんと言ったもん。 

ママとおばあちゃんが すごいごちそうを作るし、プレゼント交換もするって。 

だから、きっと来てくれるわ。」

「パン。 おめえは また、あんな遠くまで 一人で…。」 

だが ため息をついた後、チチはこう続けた。

「今度は みんなが起きてる時間に、来てくれればいいんだが。」

 

ブルマが すかさず反応する。「えっ? 孫くんって帰ってきてるの?」 

「あ、いや、たまーにな。」

「夜遅く、チチさんにだけ会いにくるんだあ。 なーんだ、心配することなかったわね。」 

「いや、そういうこともあったってだけだべ。」

まるで小娘のように うろたえる祖母を見つめて、笑いながらパンは言った。

「夜に こっそり来るなんて、おじいちゃん、まるでサンタクロースみたい!」

「プレゼントなんか持ってこねえし、腹へったーって騒ぐだけだけどな。」 

チチの一言で、笑い声は一層大きくなった。

 

帰りのジェットフライヤーの機内で、娘に向かってブルマは尋ねる。 

「ブラは悟天くんが好き? お嫁さんになりたいの?」

「うん! 面白くて優しいもん。 それに強いわ。 お兄ちゃんと同じくらい強いんでしょう?」

はきはきと答えた後で、それにね、と続ける。 

「悟天なら、パパとも仲良くしてくれるわ。」

 

やけに大人びた言葉。 これはこの子の、持ち前の個性なのだろうか。 

それとも、遅くに出来た子であるためなのだろうか。

「そんなこと 別に… あんたが考えなくたっていいのよ。」

「だって わたしも、その方がいいんだもん。」

 

機体は ちょうど、都の上空に差し掛かった。 

「わあー、きれい!!」

冬の夕闇。 窓からは、色とりどりの光の海が見下ろせる。 

「これを見たら、サンタクロースは きっと、びっくりするわね!」

子供らしい一言に、ブルマは思わず ほほえんだ。

 

そして、次に 彼女の視界に入ってきた物。 それは、生まれ育った家であるC.C.だ。

温かな光が近づくたびに、彼女の心は幸せになる。 

その明りを灯した者が誰であるか、ちゃんと わかっているためだ。

「ベジータ。」  

小さな声で呼びかける。

どうやら 気を読み取ったらしく、ブラが言い添えた。 

「お兄ちゃんも、帰ってるわよ。」

 

機体は無事に着陸した。 

家族そろった幸せな、クリスマスの夜が始まろうとしている。