348.『夏休み』
[ トランクスが大学一年、ブラが幼稚園年長さんの夏です。
熟年ベジブルの、熱い夜です。いくつになっても、ブルマを受け止めてくれる
ベジータであってほしいのです。]
大学に入って、最初の夏休み。
サークルの旅行が
何だかんだで 8月下旬に延期になり、
三泊の家族旅行と
もろにかぶってしまった。
発案・企画者である母さんにはムッとされちまったけど、
途中で抜け出して合流するってことで、何とか勘弁してもらった。
家族が滞在するコテージに降り立ったのは、三日目の夕食前。
明朝には
もう、帰るという時だった。
もうちょっと、早く来てもよかったかもしれない。
サークルの旅行は、思ったよりも
つまらなかった。
まだ一年生じゃ、仕方ないのかな。
にこにこしながら
母さんは言った。
「ちょうどよかったわ。 最後の夜だから、ホテルの方に移ろうって思ってたのよ。」
ここは
いわゆる、高級リゾート地。 大きなホテルが すぐそばにある。
「あんたがいるなら、二部屋とりましょうね。ブラのこと
お願いね。」
そう言って、いそいそと電話をかける母さん。
ピークを過ぎているとはいえ、この時期だ。
今からの予約じゃスイートか、それに順ずる部屋しか
とれないだろう。
家族四人で一泊するには、十分な広さなのに…。
なーんてことは、おれは
もちろん、言わないけどね。
レストランでの夕食を終え、部屋に入る。 母さんたちは隣の部屋だ。
コンコン。 壁を拳で、軽く叩いてチェックする。
「うん、結構
ちゃんとしてるな。 これなら… 」
家ほどじゃないにせよ、ある程度は
防音の機能も付いていそうだ。
「お兄ちゃん、さっきから何してるの?」
ブラが、訝しげな顔で尋ねてくる。
「ん? ちょっとね、調べてるんだ。 今夜、ちゃんと眠れるか
どうか。」
「じゃあ、これを貸してあげる! かたっぽだけどね。」
「え? おい!」
おれに飛びついてきたブラは素早く、片方の耳に何かを突っ込んだ。
「何だよ、これ。 …!」
耳栓じゃないか。
「おとといの夜、ママにもらったのよ。 よく眠れる
おまじないって言ってたわ。」
「…。」
口が達者で
ませているけど、五才のブラは まだまだ素直だ。
いろんなことに気付いちまう日は…
そう遠くはなさそうだなあ、この分じゃ。
ホテルの部屋、
キングサイズのベッドの上。
「そんなに、神経質になることないわよ。」
言葉を切って、続ける。 こちらに背を向けて、眠ってふりをしているベジータに向かって。
「トランクスは
もう子供じゃないし…。
ブラだって おとといの夜も昨夜も、ぐっすり眠って起きなかったじゃない。」
だから、ねっ。 言い終わらぬうちに、彼は覆いかぶさってきた。
「声を
たてるなよ。」
「うん!」
でも、盛り上がってきたら
いまいち自信がないわね…
と、口に出してはいないのに、ベジータは枕に向かって手を伸ばす。
何をしようとしているか、わたしは
すぐに理解した。
「ダメよ! 家じゃないんだから。」
代わりに、隠しておいたタオルを差し出す。
「はい。」
「… なんだ、これは。」
「わかってるくせにぃ。 これ、使ってね。」
まったく、こんな女が他にいるだろうか。
用意されたタオルを引き裂き、猿ぐつわの形で
口をふさいでやる。
苦しげに眉を寄せたのは
最初のうちだけで、すぐに頬を上気させる。
いかにも、期待しているふうな表情で。
余った切れ端で、手首も固定してやろうかと思った。
だが、やめた。 この下品な女を、余計に悦ばせるだけだからだ。
仰向けに寝かせた女の、胸の谷間に顔を埋める。
年齢を重ねて、柔らかさが増したためだろうか。 昔よりも、収まりがいいようだ。
それでも昔通り、若かった頃と同じように、責める。
鷲掴み、揉みしだいて、頬張って、軽く歯を立て、舌で転がす。
「ん… んんっ、」
塞がれた口からは、くぐもった、切なげな喘ぎが漏れる。
縛っていない自由な両手が、俺の髪を梳る。
若い頃も
今も変わらず、この女の胸は果実に よく似ている。
しかし果汁は、別の個所から溢れだす。 両脚を広げさせ、顔を埋める。
吸い取って、舌で拭ってやるためだ。
思い立ち、鋭くした舌を抜き差ししてやる。
すると
そのリズムに合わせて、腰を振り始めるではないか。
「んっ、 んっ、 …
」
いやらしい。
昔、この女を抱いている時、いつも思った。
欲望を満たすためだけではない、これは仕置きだ。
この
いやらしく、馴れ馴れしい女に、罰を与えてやらねばならない…。
その思いは今でもある。
十分すぎるほどに潤ったそこに、俺の、いきり立ったものを挿し入れた時。
この女ときたら、こう言ったのだ。
例の猿ぐつわを勝手にずらし、俺の手を取って。
「ね、お願い。 ここをね、指で触りながら
突いてほしいの…。」
「…。」
俺は女を裏返し、先ほどの切れ端を使って、両手首を固定した。
そして
すかさず、後ろから入り込んだ。
「んーーっ!」 何よ、ひどいじゃない。
おそらく、そんな意味のことを訴えているのだろう。
安心しろ、願いは
ちゃんと叶えてやる。
ただし、この俺が存分に、楽しんだ後でだ。
まったく
この男、ベジータときたら。
事の後、手枷の方は
はずしてくれた。 なのに、口を封じていた布は そのままだ。
仕方なく、自分で
はずす。 すっかり眠る態勢になっていた彼に、覆いかぶさる。
「ねえっ。」
「なんだ。」
「キス、しなさいよ…。」
そう。 今夜は
まだ、していなかったのだ。
「おまえの方から
しろ。」
ふんっ、そう言うと思った。
まあ、よくあることなのだ。 そっと短く、ついばむように
唇を重ねる。
焦れたベジータからの、濃厚なお返しを期待しながら。
だけど、今夜は、…
「おい! 何しやがる。」
「だって。 これも、今夜は
してなかったでしょ?」
場所を移動し、顔を埋める。 すっぽりと、根元まで咥え込む。
わたしの味と匂いのついた、今は頼りなげとも思えるもの。
舌で、優しく愛してあげる。 間違って、歯が当たることなどないように…
ああ、また膨らんできた。 ベジータの手が、指が、わたしの髪を梳る。
夏の夜は短い。 でも
まだ、終わっていない。
翌朝。 レストランでの朝食を終え、チェックアウトを済ませた後、すぐに出発した。
明日は朝から仕事だから、早めに帰宅して
のんびりするためだ。
ジェットフライヤーの機内。
「あーあ、夏休みも終わりね。 何だか
ちょっと、寂しいわ。」
そんな意味のことを
ぼやくと、ブラは こう言った。
「わたしは早く、幼稚園が始まってほしいわ。 パンちゃんと遊べるし、楽しいもの。」
「ふふっ、そうよね。 それはそうと…」
後ろの席で、腕を組んで、トランクスは
ずっと眠っている。
「昨夜、よく眠れなかったのかしらね?」
「そうみたい。 ヘンね、ママにもらった
これ、貸してあげたのに。
かたっぽだけじゃ ダメだったのかしら?」
ブラが、ポケットを探り始める。
『ダメッ、しまいなさい、ブラ!』
声を出さずに、わたしは訴えた。
「何を貸してやったって?」
ベジータが、食いついてくる。 興味なさげな顔をしながら、結構
ちゃんと聞いているのだ。
わたしは
あわてて話を逸らす。
「あー、明日から
また、忙しい毎日の始まり!
楽しい旅行だったから 余計しんどく感じられるわー!」
さっきと、おんなじような
ぼやきだけど。
「キスしてもらえばいいじゃない?」
「え?」
ブラは続ける。 ごく
あっさりとした口調で。
「パパの方からじゃなきゃ、ダメなのよね!」
「…。」
寝ていたはずのトランクスが、大きく咳払いをした。
「えっと、そうね。 ママの、元気の源ね…。」
しどろもどろのわたしを
よそに、ブラは窓辺に駆け寄った。
「見て見て! 雲が、面白い形をしてるわ。 何日か前とは、違ってるみたい。」
「あら、ほんと。 よく気付いたわね。」
…
何は ともあれ平和で、みんな元気だ。