121.『ライバル』

[ 馴れ初め・セル戦後・ブウ戦後・原作最終回頃の四部構成です。

  収納カテゴリに迷いましたが、最後が この時期なので・・・。]

事の後、 ベッドの上で わたしは言った。  

「あんたって もしかして、自分の子供がほしいの?」

 

済ませてしまえば もう、用はない。 

まるで そう言わんばかりに 身支度をしていた彼・・・ 

ベジータは、わずかの間 動きを止めて、答えを返した。

「くだらん。 何だって そんなことを・・。」 

 

だったら、どうして わたしを抱くの?  

頭の中に何度も、浮かんでは消えてゆく疑問を呑みこんで、別の言葉を口にする。

「サイヤ人の血を引く子供を、産ませたいのかなって思ったのよ。 

優秀なうえに、女としても魅力的な、この わたしにね。」

「チッ、 己惚れやがって。 あいにく 俺は、そんなことに興味はない。」

 

そんなこと。 自分の血を残すこと、という意味だろうか。

「そうなの? わたしは、できれば ほしいけどな。 

だって 賢くて、うんと可愛い子が生まれるはずだもの。」

「せいぜい、あまり年をとらんうちに、どこかの男を騙すことだな。」

「なによ・・。」  

くやしい。 けれども、強い言葉で言い返すのは やめにした。

それは、ひどく惨めなことだと思ったからだ。

 

「何も 他の人に頼まなくたってさ、あんたで いいじゃない?」

「・・・。」   

長いような、短いような沈黙ののち、彼は こんな答え方をした。

「サイヤ人は、受胎の確立が低い。」

えっ・・?  

「子供が、できにくいってこと?」  

「そうだ。」

 

だから 少数民族なのだろうか。 こんなに丈夫そうなのに。

「へえ・・。 それじゃ 孫くんって、そういう意味でも すごい奴ってわけね。」 

「なんだと?」 

「だって、悟飯くんができたのって、結婚して すぐみたいよ。 

強くて賢くて、性格もいい。 理想の息子よね。 ・・・きゃっ!!」

 

話を遮られた。 てっきり、部屋から出て行ってしまうと思っていたのに。

しばしののち、わたしは尋ねた。 

「・・・。 どこかに、行くつもりだったんじゃないの?」  

「うるさい・・・。」   

 

再び、着ていた物を脱いでしまった彼の、体の重さ、そして熱さを、肌で感じながら。

 

わたしが彼、ベジータの子供を産むのは、それから およそ一年後のことだ。

 

 

その日から また、五年余りが過ぎていった。

 

「トランクスったらね、重力室に興味深々なのよ。」 

「・・・。」

「いつの間にか 空も飛べるようになってるし、力だって すごいの。」 

「空いている時、勝手に使わせてやればいいだろう。」

「そうじゃなくて・・。」 

わたしの言いたいこと、わかってるはずなのに。

 

でも、あえて食い下がることをせず、別の案を出してみる。

「じゃあ、悟飯くんに来てもらおうかしら。」 

「なに?」

「もちろん、悟天くんも一緒にね。 ほとんど遊びになっちゃいそうだけど・・・。」

週に何回かのことなら、チチさんも許してくれるんじゃないかしら。

「チチさんね、 あんまり 勉強 勉強って言わなくなったのよ。 

・・孫くんが、亡くなってから。」

 

何も言わない、彼に向かって 続ける。

「トランクスの師匠は結局、悟飯くんってことになるのね。 

未来から来た、あの子とおんなじ・・。」

「うるさいぞ。 黙って寝ろ。」

 

何年か前から、ベジータと わたしは同じ部屋、同じベッドで眠るようになっていた。

一緒に朝を迎えられるのは うれしい。

けれども それは、彼が地球を ついの住処と決めた、というよりは・・ 

どこか投げやりな、あきらめに近いものが感じられた。

 

次の日。  

「ママ! ママ!」  

トランクスが駆け寄ってくる。

「聞いて! おれね、明日から重力室で 特訓できるんだよ! パパが、見てくれるって・・!」

「ほんと? ベジータが、そう言ったの?」 

「うん!」  大きく頷く。

 

「それでね、ママ。 おれ、その時 着る服が ほしいんだ。」

そうよね。 あんな中で動き回るんだもの。 

普通のジャージーなんかじゃ、すぐにダメになっちゃうわよね。

「いいわよ。 トランクスの分も、すぐに作ってあげる。」 

「でもね、パパみたいなのじゃなくってね・・。」 

もじもじして、めずらしく遠慮がちな様子だ。

「悟天や、悟飯さんが着てるようなやつがいいんだ。」 

「そうなの?」

「うん。 だって、パパの着てるやつ、ぴちぴちなんだもん!!」

 

ぷっ。 わたしは吹き出してしまった。

同時に、離れた場所から 咳ばらいが聞こえた。  

ベジータだ。 わたしたちのやりとりを、聞いていたのだろうか。

「わかった わかった。 両方の、いいところを取り入れた ウェアーを、すぐに作ってあげるわね。」

 

トランクスは うれしそうで、わたしも とっても、幸せな気分になった。

もしも この先 ベジータが、手の届かない所へ行ってしまったとしても、

今日の気持ちを忘れずにいたい。

心から そう思った。

 

 

それから、およそ二年後。

地球上の生き物全てが・・・ 

ううん、それどころか、地球そのものが壊れてしまう程の、大きな戦いがあった。

けれど、皆の力で それが収束した時、孫くんは また、こちらの世界で暮らせることになったのだ。

あの一件で、親子や夫婦の絆は より一層強まった。  

もちろん家族だけじゃなく、友情、師弟愛、仲間との信頼、それに・・ 恋人同士の仲だって。

 

そう。  

あの頃、初々しい高校生カップルだった悟飯くんとビーデルちゃんは、昨年結婚した。

二人に間にできた かわいい女の赤ちゃん、パンちゃんに、わたしは今日、ようやく会うことができた。

どうして 今まで会えなかったかというと・・・ 

つわりがひどくて、寝込んでいたためだ。

トランクスの時から10年余りが過ぎた今、

この わたしも やっと、ようやく、二人目の子を授かったのだ。

 

「あーあ、 パンちゃん、可愛かったな。 できればだけど、わたしも 今度は女の子が ほしいの。」

病院の健診では まだ、男か女か はっきりしなかった。

「女の子も育ててみたいわ。 

だってさ、くやしいけど この子が、わたしにとっての最後の赤ちゃんになるわけでしょ?」

 

そういうことを口にすると、ベジータは決まって、何も言葉を返さない。 

おそらく、何と言っていいか、まるで わからないんだと思う。

だけど、今日は口を開いた。 

「確率は低いな。 サイヤ人は、女が極端に少ないんだ。」

女の子の出生率が低いってこと? 

「あら、じゃあ パンちゃんはめずらしいのね。 

あ、でも悟飯くんはハーフで、地球人の血が濃いから・・?」

そういうことだ。 と 言うように、ベジータは小さく頷いた。

 

「ふーん。 じゃあ、トランクスの子供に期待するしかないのかしら。 

サイヤ人の女の子を見てみたいって気持ちもあったのよね。」

それに 娘だったら、あんたのお母さんに どこか似てるかもしれないでしょ?

 

付け加えた言葉に、ベジータは いつもどおりに 「フン。」 と 答えた。

けれど、いつものように 「くだらん。」 とは言わなかった。

 

数カ月後、無事に生まれてきたのは、それは元気な女の子だった。

これには、ベジータも驚いていた。

 

 

わたしにそっくりだった娘・・ ブラは、それでも サイヤ人らしく とっても丈夫で、

今は幼稚園に通っている。 同学年だから、パンちゃんも一緒だ。

トランクスと悟天くんも、二人の面倒を よく みてくれる。

ああ、だけど、ブラとパンちゃんは逆に、

おにいちゃんたちのお世話をしてあげてるって思っていそうだ。

とにかく、四人はとっても仲良しなのだ。

 

「ねえねえ ベジータ。 わたし、いいこと思いついちゃったわ。」 

「言わなくていい。」

「? どうして?」 

「聞かなくてもわかる。 つまらんことを言うな。」

 

薄くなる一方のサイヤ人の血が、いま一度ギューッと濃くなるチャンスだっていうのに。

孫家と深く関わることになるのが、気にいらないのかしら?

 

それにしても孫くんを・・ というより、今じゃ 孫家全体を、なのかな。 

ライバル視するのは 相変わらずよね。

でも、意識しちゃうのは よく わかるわ。

だって考えてみれば、わたしも ずいぶん 影響されている。

孫くんと出会って過ごした日々があったからこそ、

ベジータという人を、これほど深く 愛せたのだと思うから。

 

戦わない男は、もう愛せない。

強い男・・・  強くあろうと、努力している男が好き。

だけどね、必ずしも、一番じゃなくたって いいのよ。

これを口にしたら、多分 すっごく 怒るんでしょうね・・・。

 

「ねえ、さっきの話だけどさ、子供たちの。 

別に、無理に くっつけようっていうんじゃないのよ。」 

「・・・。」

「男の子と女の子、二人ずつだから ちょうどいいかなって思ったの。

けど、悟飯くんのところは またできるもんね。」

そしたら 誰かが、余っちゃうものね。

「あはっ、 でも・・。」 「なんだ。」

「意外と、孫くんのところに できたりしてね! ありえなくはないわよ、何せ 孫くんだし。

何が起こるか、わかんないわ。  ・・キャッ、 ちょっと!!」

 

そうなのだ。 実は これらの会話は全て、ベッドの上で おこなわれていた。

もちろん、いつも裸だったってわけじゃないんだけど・・・。

「わたしは もう、無理だからね!」