192.『ハニームーン 〜蜜月』

[ 変わり映えしなくて申し訳ないのですが、

一応5万ヒット御礼のつもりで書きましたお話です。]

大学を卒業するのと同時に、トランクスはC.C.社の新社長に就任した。

だがブルマは、それで 晴れてお役御免というわけには いかなかった。 

会長という肩書のもと、若き社長となった息子を支え、フォローやアドバイスをしてやった。

かつて、父であるブリーフ博士が、自分にしてくれたのと 同じように。

 

それから さらに 月日は流れ、その役割からも ようやく解放されつつある。

振り返れば、ずいぶんと長い間 走り続けてきた。

40歳を過ぎて授かった二人目の子、 ブラも中学生になった。 

これからは、少しは のんびりできるだろう。

 

そんな中、トランクスはブルマに、ある贈り物をした。

それは 人里離れた場所に建つ、老舗の高級旅館の宿泊券だ。 

もちろん、個室露天風呂付きである。

せっかくだから 家族みんなで行きたい。 ブルマは、そう提案した。

けれども トランクスは まとまった時間がとれないの一点張りで、

ブラも学校の試験が近いなどと言い出し、家に残ることになった。

 

肝心のベジータはといえば、かなり渋った様子だったが最終的には 同行することを承知した。

おそらく、息子と娘が二人がかりで長時間にわたって説得したのであろう。

この小旅行は、いわばブルマの引退・・ 無事に退職の日を迎えたことの祝い、そして慰労なのだ。

だから 最愛の夫であるベジータが行かなくては、意味がないのだった。

 

 

「あー、 おいしかった。」  

次々と部屋に運ばれてくる、豪華な夕食を終えた後、ブルマは ごろんと横になった。 

次の間には、いつの間にか布団が敷いてあったのだ。

「あげ膳 据え膳って、このことよね。 幸せ〜。」 

いつも手伝いロボット任せで、自宅にいても家事など ほとんどしないくせに、そんなことを言っている。

 

「ねえ・・。」 

寝ころんだまま手を伸ばし、傍らに腰を下ろしていた 夫のそれに、そっと触れる。

「いいわよ。」  

「・・・。」

さっき 露天風呂では、中途半端に終わってしまった。 めずらしく、ブルマが強く拒んだためだ。

『ダメよ、 これから 部屋で食事なのに。 

あんたにとっては食前の運動かもしれないけど、わたしはグッタリしちゃう・・・。』

こんなことを口にしながら。

 

「食後の運動になるでしょ?」 「フン。」  

覆いかぶさったベジータの手が、するりと浴衣の紐を解く。 

ブルマときたら 用意周到にも、下着を着けていなかった。 

重たいからと、丹前も着ていなかったため、すぐに生まれたままの姿になった。

「うふっ。 まるでプレゼントのリボンみたいね。」 

「図々しいことを・・。」 

いかにもブルマらしい言葉に呆れながらも、ベジータは何かを思いついたような顔になった。

「どうしたの? あ・・ っ!」

 

ついさっき、解いたばかりの浴衣の紐で、彼女の両手首を固定する。

「ちょっと! 何考えてるのよ、こんな・・ 」 

「旅行というのは、非日常を楽しむものなんだろう?」

・・・ 子供たちに、そんな言葉で説き伏せられたのだろうか。

「非日常って・・。 家でだって、たまに こういうこと するじゃない、 あ、 あっ ・・・ 」

強く、 弱く。  

裸の胸は、ベジータの指、そして手のひらによって、既に弄ばれている。

「だったら 何故、今日は いちいち逆らうんだ?」 

「だって・・ 家と違って防音されてないじゃない・・ 声が、聞こえちゃう・・っ」

「なら、 あれを使って塞いでおくか?」 

彼の目は、さっき脱がした浴衣をとらえている。 

上質な生地の品だが、彼の手にかかれば あっという間にボロ布だろう。

「ダメだったら! 家じゃないのよ!」

そりゃあ、弁償すれば済む話かもしれない。 だが 一体、何と言いわけをすればよいのか。

 

「じゃあ、つべこべ言うな。」  

不満が漏れるブルマの口は、ベジータの唇によって塞がれる。

やや乱暴な、あまり長くはないキスの後、彼の唇は少し下・・  彼女の胸に移動した。

非力で、しかも抵抗する気などないブルマを 後ろ手で拘束する理由など、一つしかない。

もともと 豊かな彼女の胸が、より一層、前に突き出される形になるからだ。

 

二つの白い膨らみは、甘ったるい匂いを放っている。 

熟しきった果実に似たそれを、思い切り頬張る。 味わうように、食らいつく。

かろうじて、噛みしめることだけはしない。 だから果汁は染みださない。

だが その代わり、さらに下に位置する 茂みに隠れた個所からは、どくどくと あふれ出している。

せわしなく舌を動かそうが、指を何本使おうが、拭いきれるものではない。

「・・・。」

だから 彼は仕方なく腰を沈め、体重をかけるのだ。 

急いで栓をし、あふれるものを止めてやらなくてはならないから。

 

「あ、 あ ーー ・・ っ、 」 

自分が言ったことなど すっかり忘れて、絞り出すような声で ブルマは喘ぐ。

我を忘れてしまう快感、 そして・・ 

自分を掻き抱いている男の背中に、両腕をまわして縋りつくことのできない切なさを、

訴えているのだった。

 

 

事の後。 

夫の手によって ようやく枷を外された両手首を見つめ、ブルマは不平を口にする。

「あーあ、痕がこんなに・・。 これじゃあ しばらくは、長袖しか着れないわ。」

 

その表情にも 口調にも、彼に対する怯えは微塵も感じられない。

思えば、初めて この女を抱いた時から そうだった。

今も昔も、自分が その気になりさえすれば、殺してしまうことは もちろん、

生きて暮らしている この世界ごと、跡形も無く消してしまえるというのに。

それを思うと 彼は今でも、ほんのわずかだが苛立ちを感じる。 

若くなくなった妻を 若かった頃と同じように責め苛むのは、そういう理由もあるかもしれない。

 

脱がされたまま 放ってあった浴衣を、ブルマは再び身につけた。

いつもならば 事後のだるい疲労感で、裸のままで眠ってしまう。 

けれども さすがに、こうした宿では抵抗があった。

「あんたも、ちゃんと着て寝なさいよ。」

おそらく、まだ眠っていない。 なのに、返事は帰って来ない。

 

「気付いたんだけど・・ 浴衣って、結構エッチよね。」 

掛け布団を、肩までかけてやりながら続ける。

「胸も脚も、しっかり隠れてるっていうのに、腰紐を解くだけで 裸になっちゃうんだから。」  

つぶやきながら、自分も布団に横たわる。

 

小さなライトだけをつけた暗がりの中、ブルマは思いを巡らせる。

そうだわ。 考えてみたら、初めてじゃないかしら。 この人と二人きりで、宿に泊まるなんて。

トランクスも そう思ったから、この旅行をプレゼントしてくれたのかも。 

そして、ブラもついて来なかったのかも。

 

隣に横たわる夫の背中を、暗さに慣れた目でじっと見つめる。

始まりは、なんとなくだった。 

愛されていると思いきれぬままに、幾度となく体を重ねた。

どうにか 落ち着いてからは仕事、それに子供たちがいた。

もしかすると これからが自分たちにとっての、本当の蜜月なのではないだろうか・・・。

 

だから 今は、考えるのをやめにする。

自分は いつまで、こんな夜を過ごせるのだろう。 

さっきのように狂おしく、抱かれることができるだろうかということを。

 

端が重なるように敷かれた布団。  浴衣姿で、背中に寄り添う。 

明日になっても この人は、固く結んだ腰紐を、素早く解いてくれるだろうか。

裸の背中に唇を寄せると、小さな声が耳に届いた。

「ブルマ。」  ・・・

「えっ、 なあに?」

 

返事はない。 

何を言おうとしたのだろう。 それとも、寝言だったのだろうか。

どちらでもいい。 どちらにしても、自分は とても幸せだ。

愛する男の体温と鼓動を感じながら、ブルマは ゆっくりと瞼を閉じた。