010.『家族の食卓』
[ ブラは中2くらいをイメージしました。
拙サイトのブラは何かに特化してはいないけれど、(母と違い・笑)
家事なども結構器用にこなせるという設定です。]
風邪をひいてしまった。
だけど熱は下がったし、もう
ずいぶん よくなったんだけど、
皆がうるさく言うから
一応寝室で過ごしている。
薬のせいで眠ってしまい、今
目を覚ました わたしは驚いた。
同じベッドの上、端の方にベジータが横になっていたからだ。
遮光ブラインドがもっと
きっちり閉まっていたなら、夜中だと勘違いしていただろう。
視線に気づいたのだろうか。 ベジータが、瞼を開いた。 それを見て
すかさず話しかける。
「めずらしいわね、
あんたがゆっくり昼寝するなんて。」
「昨夜はよく眠れなかったからな。」 「どうして?
わたしが心配だったから?」
「・・おまえの咳がうるさくて、だ。」
「なによ。
だったら、別の部屋で寝れば よかったじゃないの。」
それに
昼寝できる場所だって、このC.C.には いくらでもあるのに。
付け加えながら、背中に寄り添う。 「ベタベタするな。
風邪がうつる。」
「今さら何言ってんのよ。
大体 このうちに来てから、風邪なんかひいたことないじゃない。」
そんなことを話していたら、何だか
おなかがすいてきた。
「ねえ、お昼、ちゃんと食べた?」 「ああ。」
「自動調理機でしょ? 何を作ったの?」 「・・。適当にな。」
この人って
ほんとは身の回りのいろんなこと、ちゃんとできるのよね。
「わたしも何か食べようっと。 果物でも残ってるかしら。」
起き上がったわたしに、ベジータは言った。
「ブラが朝、鍋に何か作ってたぞ。 おまえに、と言っていた。」
「あら
そう。 うれしい・・・。」
中学生になったブラは
意外と料理が得意らしく、家庭科の成績もいい。
もしかしたら
小さい頃 パンちゃんと遊ぶために、孫家・・
つまりチチさんの所にしょっちゅう出入りしていたことが
よかったのかもしれない。
「何を作ってくれたのかしら。 楽しみ・・。」
「な、何してやがる!」 「えっ?」
わたしは、パジャマの上衣を脱いだところだった。
「汗かいちゃったから、別のに取り替えようとしたんだけど。」
「・・・。」
「やーね、反応しちゃって。」
ほんの二〜三日、[お休み]しただけなのにねー。 と、付け加えるのはやめておく。
それなのに、「下品なことを言うな!」
お決まりの一言を残し、ベジータは部屋を出て行ってしまった。
パジャマを取り替えて、ベッドの上の枕や毛布の位置を
簡単に直しながら、わたしは考えていた。
昔、
こんなふうに風邪をひいてしまった時、
トランクスやブラが
まだ小さかった頃のことを。
夫婦の寝室には入れないようにしていたけれど、ああいう場合は例外だった。
『ママ、大丈夫? ごはん食べられる? あのね、さっき
おばあちゃんが、ママにシチュー作ってたよ。
おれも、野菜を切るお手伝いしたんだよ!』
『ママ、果物だったら食べられるでしょ。
わたしね、デザート作ったのよ。
前にパンちゃんのおうちで教わったの。 うちではイチゴを使ったのよ。
だってママはイチゴが大好きでしょ?』
どちらも、わたしが寝ているベッドの端に寝そべりながら、とめどなく話しかけてきたものだ。
普段
仕事が忙しくて、接してあげる時間が短いせいかしら、なんて反省もさせられたけど・・・
『ねえ、うつっちゃうといけないから、そろそろ行きなさい。』
そう言って切り上げようとすると、トランクスもブラも、見事に同じ言葉を返した。
『うつったりしないよー
・・ 』
『
・・風邪なんか、産まれてから一度もひいたことないもの。』
そんなことを思い出していたら、ベジータが戻ってきた。
なんと、お皿がのったトレイを手にしている。
「わあっ、気がきくじゃない、
ありがと。」 「フラフラ歩き回ってないで、さっさと食って 寝ろ。」
「寝ろって、さっき起きたばっかりじゃない。」
受け取ったトレイをサイドテーブルに置き、ベッドに腰かけてスプーンを口に運んでみた。
「あら、おいしい。」
ブラが作っておいてくれたという料理、
それはクリームシチューだった。
「ちょっと薄味ね。
病人用かしら。 でも、野菜もきれいに切ってあるわ。」
「そんなに
うまいなら、これからも作れと言っておけ。」
「自分で頼めばいいのに。」
この人、ブラには何となく遠慮っぽいのよね。
年頃の娘を持つ父親って、みんな
そうなのかしらね。
「・・まあ、義務みたいになっちゃうと
イヤがるでしょうけどね。」
ふと気付いて、スプーンを向けてみた。 「はい。」
「なんだ。」 「おいしいし、体にも良さそうよ。 あんたも食べるといいわ。」
「いらん。 さっき・・
」 「え?」
「・・いや、何でもない。
さっさと食って寝ろ。」 「もうっ。 そればっかり。」
食べ終わった後、仕方なしにベッドに入った。
ベジータはトレイを持って行ってしまったけど、さすがに
すぐは眠れそうにない。
しばしののち、
ドアをノックする音が聞こえた。
「はい、どうぞ。」
答えてはみたけど、防音だからこっちからの声は聞こえないわね。
代わりにスイッチを操作し、ドアを開いた。
立っていたのは、学校から帰って来たブラだった。
「ママ、具合どう? 食欲は出てきた?」
「うん、
もう平気よ。 シチュー、とってもおいしかったわよ。 ごちそうさま。」
「えっ・・?」
ブラは怪訝な顔をした。
今朝、たしかに野菜をカットまではしたけれど
時間が足りなくなり、そのまま登校してしまったのだ。
曖昧に返事をし、台所に行ってみる。
すると、小鍋など、調理器具を使った跡が見られた。
これは・・ 父が料理したとしか思えない。 母のために、自動調理機も使わず、自分の手で。
その時。 「ブラ。」 背後から声をかけられた。
「お兄ちゃん。」 父ではなく、兄だった。
「どうしたの、
こんな時間に。」 「ちょっと、出先から寄っただけだよ。 母さんの具合、どうかな。」
「大丈夫じゃない?顔色も良かったし、お昼も食べられたみたいよ。」
「そうか。」 安心したように、妹の手に箱を手渡す。
「?
なに?」 甘い香りが漂ってくる。
「さっき買ったんだ。 食べられそうなら・・。 見舞いだよ。 おまえも一つ、食っていいぞ。」
そう言い残して、トランクスは会社へ戻って行った。
ブラは再び、両親の寝室へと向かった。
ドアをノックする。 今度は自動ではなく、父の手によって開かれた。
部屋の奥にいる母に向かって、声をかける。
「デザートを持って来たわ。 ママが大好きな、イチゴを使ったものよ。」
皿ののったトレイを父に手渡す。
ベッドの上からブルマが答える。 「ありがとう。
あんたも一緒に、ここで食べればいいじゃない。」
「ううん、いいの。」
小さい頃は興味深々だった両親の寝室だが、今はどうも・・。
日が高いうちであっても、何となく入りにくかった。
「わー、
おいしそう。 ブラはホントにお料理が上手ね。 今度教えてもらうわ・・。」
「パパに教えてもらうといいわ。 じゃ、わたし、学校の宿題があるから。」
そんなことを言って、ブラはさっさと立ち去った。
「クールな子ねえ。 トランクスは毎日忙しいし、なんだか寂しいわ。
昔は このベッドに寝そべって、ずーっとおしゃべりしてたっていうのに。」
ひとしきり
ぼやいた後、ブルマは あーんと口を開けた。
それを見たベジータは、手にしたスプーンを妻の口元に運んでやる。
ほとんど、反射的に。
「うふっ、
おいしい〜。」 「フン・・。」
「早く元気にならなきゃね。」 ブルマは
にっこりとほほ笑んだ。
食卓で
ブラは一人、スプーンを口に運んでいる。
「お兄ちゃんが買ってきてくれた、って言いそびれちゃった。 わたしが作ったと思ってたみたいね・・。」
食べ終えた後
席を立ち、冷蔵庫を開けて首をひねる。
「仕方ないわね、夜はちゃんと作ってあげようっと。 何がいいかしら。」