134.『贈り物』

[ 時期は原作最終回の頃、ブルマの誕生日のお話です。]

C.C. 、深夜、 夫婦の寝室。

 

「うふっ、 た・だ・い・ま〜。」 

外出着のまま 化粧も落とさず、ブルマがベッドに倒れこんできた。

眠ったふりをすることで ベジータは、無視を決め込むつもりだった。

しかし 酒と香水、そして煙草の煙の臭いが どうにも我慢ならず、つい声をかけてしまう。

「着替えぐらいしたら どうなんだ。」 

「だってえ・・ 楽しかったけど、何だか疲れちゃって・・。」

 

半分は、遊びのようなものだった。 

だが 仕事に関係のある集まりだったため、気の張ることもあり、楽しんでばかりもいられなかった。

おまけに 幼稚園までブラを迎えに行き、家に送り届けてから 再び出直したのだ。

 

同じベッドに横たわっている夫に向かって、ブルマは甘えた声を出す。 

「じゃあ、あんたが着替えさせてよ。」 「知るか。 赤ん坊でもあるまいし・・ 」

「いいじゃない。 だって明日・・ ううん、もう今日ね。 わたしの誕生日よ。」

 

誕生日。 

そういえば何日か前、トランクスが居間で、ブルマが愛読しているファッション雑誌を広げていた。

見ていたのは、巻末にある通販のページだ。 

それには洋服だけでなく、比較的安価な小物やアクセサリーの類が多く紹介されているのだ。

まだ幼いブラも 一緒になって覗きこみ、一人前にあれこれ言っている。 

しかも こちらに向かって、意見まで求めてきた。

『ママへのプレゼントを選んでるのよ。 ねえ、パパはどれがいいと思う?』

 

わからん。 俺に聞くな。 いつもならば そう答えた。 

しかし娘からの質問だったため、一応は言葉を選んだ。

『・・そんな物、 あいつは腐るほど持ってるだろう。』

トランクスが口を挟む。 『そうだけど・・。 おれたちが選んだってことに、価値があるんだよ。』

そして、こう続ける。 

『まあ、結局はママのお金なんだけどね。 ママにもらったお小遣いで買うんだから。』

 

 

・・気がつけば ブルマは、ベッドの上で半身を起こし、一枚残らず 服を脱いでしまっていた。

「やっぱりシャワーを浴びることにするわ。 ねえねえ、連れてって。」 

そう言って、夫に向かって両腕を伸ばす。

「な・・ 甘えるな。 さっさと行って来い。」 

「何よ。 いいじゃないの。 プレゼントの代わりに、ね?」

 

プレゼント。  あの日、トランクスは こんなふうにも言っていた。 

『ママへのプレゼントって難しいんだよね。 何だって自分で買えちゃうし。』  ・・・

 

舌打ちをしながらも ベジータは、産まれたままの姿になった妻を抱えあげた。

寝室内には簡易のバスルームがついており、数歩 歩いただけで着いてしまった。

ドアのノブを回し、扉を開けてやりながら ベジータは言った。 

「着いたぞ。 下りろ。」 

「ねえ、髪と体、あんたが洗って。」 「何を・・。 どこまで甘える気だ。」 

「いいでしょ。 年に一度のことなんだから。」

 

あんたなんか、毎日が誕生日みたいなもんじゃないの。 

地球一の環境でトレーニングしてさ、毎食ごちそうを食べて、そして夜には わたしっていう美女と・・・。

最後までは言わずに済んだ。 ベジータが、折衷案を出してきたためだ。 

「その代わり、買い物なんぞに付き合えとは言ってくれるなよ。 絶対にだ。」

「うん。 わかったわ。」  今年は、ね。 

笑いながら、そう小さく付け加えていたことを、彼は知らなかった。

 

「はい。 シャンプーは これね。 濡らした手で、よーく泡立てて・・。」

二人で入浴した際、ブルマは いつも夫の髪を洗ってやっている。 

そのせいなのか、ベジータの手つきは 思いのほか良かった。

「気持ちいい〜。 美容院ならともかく、家のお風呂で誰かにシャンプーしてもらえるなんて・・。 

あっ、でも・・ 」

クスクスと、何かを思い出したように笑いだす。

「この間ね、ブラが洗ってくれたのよ。 手はちっちゃいけど、力加減はちょうどよかったわ。 

そういえばトランクスにも昔・・。なつかしいわ。」

 

シャワーで泡を流していく。 

「はい、じゃあ リンスしてる間に体を洗うの。 これがボディソープね。 そうだわ、ねえ・・ 」 

「なんだ。」

「スポンジを使わないで、手で洗って。 赤ちゃんを洗うみたいに、優しくね。」 

「チッ、 調子に乗りやがって。」

何度目かの舌打ち。 けれども彼の両手は 泡とともに、ブルマの白い肌の上を滑る。

「んっ、 あ ・・ 」 「おかしな声を出すな・・。」 

「だって・・。 あ、ダメ、 そんなとこ・・」

 

両脚の間を、何かが流れていく。 泡とお湯だけではない、別のものが混じっている・・。

たまりかねたブルマは、向き合っている彼の唇に、自分のそれを押しつけた。 

次第に深く重なり合って、お互いの舌が絡み合う。

嗜好品を好まないベジータは、酒を口にすることは ほとんど無い。 

けれど いくつかの酒の味は知っていた。 

それは主に、酔った妻とのキスによってだ。

 

泡を流すのも そこそこに、二人はベッドへと戻った。 

バスルームで事に及ぶのを、ブルマが嫌がったためだ。

「ここじゃイヤ。 ねえ、ベッドで、いっぱい してほしいの・・。」

確かに そう言っていた。 

なのに なんと、仰向けの姿勢で 愛撫を受けながら、ブルマは寝息を たて始めた。

 

「おい!」  呼びかけたが無駄だった。 

あられもない姿で、さんざん煽っておきながら・・・。

腹を立てたベジータは、構わないから このまま 下半身を割り込ませてやろうと考えた。

だが、実行にはうつさなかった。 

妻の口から発せられた、微かな寝言が 耳に入ってきたからだ。

「ベジータ・・ 好き・・。」

 

もう、20年近くも前のことになる。

欲望を満たすためならば、眠っていようが お構いなしで のしかかった。 

目を覚ましたブルマは身をよじり、抗議の声をあげた。

けれど最後には いつも、今と同じことを言ったのだ。 

華奢な両腕を、背中に きつくまわしながら。

 

 

朝。  ベジータが目覚めた時、ブルマの姿はベッドの上から消えていた。

少々 寝坊してしまったせいもあるが、めずらしいことだった。

身支度を終えて食堂へ行くと、トランクスと、園服に身を包んだブラが 食卓についていた。

「ママは早朝会議があるからって もう行ったよ。 朝食は そっち。」 

自動調理器も、ちゃんとセットしていったらしい。

 

妹に向かって、トランクスが声をかけている。 

「ブラ、急げよ。 もうちょっとで家を出ないと。」 

「うん・・。」

サイヤ人とのハーフであるブラは やはり、普通の子供よりも 食べる量が多い。

だが そこは母に似てしまったのだろうか。 一口が小さくて、早食いができないのだ。

ベジータが口を挟む。 「まだ時間があるだろう。」 

「おれ、今日 日直なんだ。 だから早めに行かなきゃいけないんだよ。」

「・・なら、今日は俺が送っていく。」 

そして、娘の方を見ながら言う。 「よく噛んで食え。」

「えっ、 そう? じゃあ・・。」 

 

めずらしいこともあるもんだ。 いつも そうしてくれれば、ママもおれも助かるのに。

そんなことを思いながら、トランクスはひとりごちる。 

「もしかすると、これがママへの 誕生プレゼントのつもりなのかなあ。」

 

 

朝食を終えた後、父と一緒に登園しながら ブラは声をはずませる。

「わたしね、お兄ちゃんからのプレゼントに添えるカードを作ったのよ。 

あのプレゼントだって、わたしが選んだんだから。」

一人前の口をきく自分に苦笑している父親を見上げて、ブラは尋ねる。

「パパは、一緒にいてあげるんでしょ。」 

「なに?」

「ママが言ってたの。 パパからは何をもらうのって聞いたらね、ずっと一緒にいてほしいなって。」 「・・・。」

 

初めのうちは、不本意だった。 だが、次第に。 

そして、今は・・・。

おそらく これからも毎年、ブルマは それを手にするのだろう。 

今では夫となった彼と過ごす、幸せな時間。

愛する男から捧げられる、掛け替えのない贈り物を。