268.『いつものこと』

[ ベジータとブルマが しょうもない理由でケンカをするお話が書きたかったのです。]

久しぶりにケンカをしてしまった。 

まあ、ケンカっていうよりは 言い返したわたしの言葉で不機嫌になったベジータが

その場を退場、という よくあるパターンなんだけど。

 

『おまえの好む くだらん娯楽には付き合えん。 誰か別の奴を誘え。』  

彼ときたら、ろくに話も聞かないで デートの誘いを却下した。 

『わかったわよ。 だけど・・ 』 

腹を立てたわたしは、ついつい余計なことを口走る。

『別の奴って、たとえば誰?』

『なんだと?』 

『誰を誘えばいいか教えて。 あんたの言うとおりにするわ。』

『知るか。 好きにすればいいだろう。』 

『ほんとにいいの?そうしても。』 

わざと、含みを持たせてみる。

『・・・。』 

 

踵を返し、ひどく乱暴にドアを閉めて ベジータは立ち去った。 

その時、 同じ部屋にはブラがいた。  

泣いたりはしなかったけれど、不安げな顔でわたしたちを見つめていた。 

いつもは口数の多い子なのに、黙りこんでしまっていた。

かわいそうなことをしてしまったと、心から思う。

でも、わたしだけが悪いんじゃないわ。 本当にあいつってば、いつまで経っても・・・。 

 

とにかく今夜は、同じ部屋で休む気になんかなれない。

それに、すぐには寝付けそうもない。 そうだわ。 どうせ眠れないのなら・・・。

わたしは居間に行き、買ったままで封を切っていなかったDVDを手に取った。 

ちょうどいいわ。 気晴らしに これを観ることにしよう。

 

遥か昔、中世の頃を舞台にしたロマンティックなラブストーリーだ。

公開された当時は、雑誌や情報番組で盛んにとりあげられていた。

そういえば ベジータにも、まず 映画を観に行こうと誘ったのだった。 

買い物や食事は まあ・・ あるけど、映画館には一度も一緒に行ったことがない。

もちろん こういった女性向けの作品ではなくて、

彼も楽しめるようアクションシーンの多いものをと考えていた。

なのに まったく、人の気も知らないで。 フン、だ。

そんなことを思いながら リモコンを操る。 オープニング映像の後、いよいよ本編が始まった。

 

その時。 扉が開く音が聞こえた。

居間に入ってきたのは、トイレに起きてきたブラでも、このところ やけに帰りの遅いトランクスでもない。

相変わらず不機嫌な顔をしたベジータだった。

彼は何も言わず、わたしが座わっているのとは別の 一人掛けのソファに腰をおろした。 

信じられないことに、そのまま腕組みをしながらTVの画面を見つめている。 DVDを観ているのだ。

これまで、ニュースなどの番組を眺めていたのを目にしたことは もちろんある。

けれども  これほど きちんと観賞するなんて、初めてではないだろうか。

残念ながら 映画館ではないけれど、思いがけず わたしはベジータと一緒に映画を観ることとなった。

 

映画の方は評判通り、なかなか良かった。

ベジータが どう反応しているか気になって、内容に集中できない時もあった。

けれども 衣装は豪華で美しく、出演している俳優さんたちも皆 魅力的だった。 

ラストでは思わず涙ぐんでしまったほどだ。

 

トレイからディスクを取り出して ケースにしまっていると、ベジータがようやく口を開いた。 

「いったい どこの星なんだ、あれは。」

「えっ?」  星って・・・。 「地球に決まってるじゃないの。」 

「メカの類が全く見当たらなかったな。 あんな地域がまだあるのか。 全く遅れた星だ。」

・・・?  何言ってんの? 

「何百年も前のお話よ、あれは。」 「ほう・・。」

今度は いやに感心した様子だ。

「そんなに昔の映像が、あれほど鮮明に残されているとはな。」 

「・・・。」

えーっと・・ この人、知らなかったのね。  

 

「ベジータ、あのね、映画っていうのはね・・ 」

そりゃあ、実際に起きたことの映像を編集したようなものも 中にはあるわよ。

だけど大抵の場合は 原作や企画を元に脚本が作られて、

監督の指示で俳優さんたちが役を演じるの。

そういったことを かいつまんで説明する。 それを聞いたベジータは、心底あきれたような声を出す。

「つまり、単なる作り話を観て 喜んだり泣いたりしているのか、おまえたちは。」 

そして、お決まりの一言だ。 「くだらん。」

 

「なによ。 いいじゃないの。 

少しの間 慌ただしい日常から離れて、美しい世界に浸るのが楽しいのよ。」

まったく・・。  デリカシーってものが無いんだから。

「だったら、家で観ればいい。 わざわざ出かけていく必要など ないだろう。」

もう。 また、その話なの? 

「観終わった後 感想を述べ合いながら、おいしいものを食べたかったの。」

「家で充分だ。 どうしても変わったものが食いたいなら、料理人を呼び寄せればいい。」

そりゃあ、確かに そうすることもできるけど・・・。 

「おしゃれして街へ出るのが楽しいんじゃない。」

「好きなものを着ればいいだろうが。」 

「家で? あんたに下品ってケチをつけられながら?」  「・・・。」

 

言い合いをしながらも わたしたちは いつしか、ずいぶんと距離が縮まっていた。

ベジータに向かって両腕を伸ばす。 

反射であるかのような それを合図に、彼はわたしを抱き上げる。 

まるで、何かの約束事みたいに。

 

居間を出て、廊下を歩いていく。 

ほんの一瞬 片手が離れて、寝室の扉が開かれる。

ベッドに寝かされた わたしは言った。 

「家でおしゃれしたって、どうせ こんなふうに あっという間に脱がされちゃうんだわ。」

でも・・ 近頃はそういの、あんまり無かったわよね。 

まるっきり無いってわけじゃないんだけど、なんとなく 、情熱が足りなかったような・・。

口に出してなんかいないのに、ベジータは わたしの顔を覗き込む。 

「おまえの、本当の要求はそれか。」

 

・・・そうかもしれない。 でもうなずいてなんかやらない。 

「あんたこそ、さっきから家、家って。 そんなにC.C.が好き? それとも、 」

わたしと家で過ごすことが大好きなのかしら。

言い終わらぬうちに唇が重ねられる。 口を塞がれ、言葉は途中で終わってしまう。

 

いつの頃からなのか覚えていない。 

けれど、わたしたちのケンカは大抵、こんなかたちで終わりを告げる。

だから 今じゃ だーれも相談に乗ってくれないし、トランクスは もう、全く動じない。 

今は まだ小さいブラもいずれ、そうなってしまうんだろうか。

 

 

「ねえ、ベジータ。 」 いつもどおり、彼の左腕を枕にしながら 話しかける。

「あんたって、出掛けるのがイヤっていうより 家にいるわたしが好きなんじゃない?」 

結局、独り占めしたいってことなのかしら。

 

そっぽを向いたベジータは眠ったふりで、何も返事をしてくれない。

だけど肩を抱いている手に少し、力がこもったような気がする。 

少しだけ笑って、わたしもまぶたを閉じる。

夜は更けて、わたしたちは眠りに落ちる。 

いつもどおりに、お互いの体温を感じ合いながら。