235.『笑顔』
[ ブラが、ブウ戦後すぐにできた子だったら?
というIFストーリーです。舞台は、原作ラスト近くです。]
裏山での久しぶりの修行。 お父さんは、やけに張り切っていた。
地面に座り込んで、肩で息をしているおれに言う。
「なんだ、 だらしねえなぁ。 サボってばかりいるからだ。」
仕方ないだろ。 (あんまりやらないけど)勉強や、家の手伝いだってあるんだから。
それにさ・・・。
おれは、ようやくデートの約束をとりつけた彼女の顔を思い浮かべる。
あーあ。 天下一武道会なんて、もう別に出たくないのに。
C.C.のマークの入ったジェットフライヤーが着陸して、
ベジータさんとブルマさんと・・ ブラちゃんが降りてきた。
ブラちゃんは9歳。 トランクスの妹だ。
うちのお父さんと話をしている両親のそばから、こっちのほうをチラチラ見ている。
そして、おれのほうに駆け寄ってくる。
「悟天・・・ 」
うんと年下のくせして、いつも呼び捨てなんだ。 別にいいけど。
「天下一武道会に出るのね。 パパも出るし、お兄ちゃんも出場させるって・・・。」
楽しみだわ、 とブラちゃんは笑う。
そう。 ブラちゃんは、おれとトランクスが勝負した武道会の・・
あの、大きな戦いの翌年に生まれたんだ。
いろんなことが片付いたあと、C.C.でにぎやかなパーティーが開かれた。
その席でブルマさんは、トランクスに弟か妹ができるってみんなに発表した。
あの時の笑顔。 ほんとうにうれしそうだった。
離れた所に立っていたベジータさんも、なんだかとっても、うれしそうに見えたっけ・・・。
「ほんとは出たくないけどね。 デートの約束があったのにさ。」
「デートなんて、いつだってできるじゃない。」
うちのお父さんみたいなことを言って、ブラちゃんは言葉を続ける。
「それに、そんなことで悟天をキライになる子はダメよ。
サイヤ人の奥さんには、なれないわ。」
大人びた口のきき方に、ちょっとビックリしていると
「・・・って、ママがよくお兄ちゃんに言ってるの。」
ブルマさんにそっくりな笑顔でそう言った。
そんな会話をしていたら、姪っ子のパンが空から降り立った。
パンも、もちろん武道会に出場する。
道着姿で張り切っているパンを見て、ブラちゃんの表情がほんの少しくもる。
ベジータさんは、ブラちゃんに戦う訓練をさせていない。
うちの場合は、義姉さんもお母さんも武道をやってたからさ。
そう言ってあげるつもりだったのに、何故か違う言葉が口から出てきた。
「ブラちゃんは、お姫様だから。」 「え・・・?」
「だからベジータさんは、戦うことを教えないんじゃないかな。」
戦いを求めるサイヤ人の本能。
それが、まだ9歳の彼女を不安にさせるんだろうか。
だけど地球で暮らしていくのなら、そればっかりはやってられない。
兄さんみたいに、折り合いをつけて暮らしていければいいんだけど。
それには、やっぱり勉強しなきゃいけないのかな・・・。
「サイヤ人の、お姫様・・・ 」
何度もそう言って、ブラちゃんはうれしそうに笑ってた。
「ブラは悟天くんのこと、お気に入りね。」
遠く離れた星で生まれ、
今はこの地球で暮らす二人の男の顔を、かわるがわる見つめながらブルマは言った。
悟空はきょとんとしながら 「へぇ。」と つぶやき、
ベジータは何か言いたげに、娘と一緒にいる少年を睨む。
ブルマは笑って、夫を制する。
彼女の、その笑顔。
何も知らなかった少年を外の世界に連れ出して、
愛を知らなかった男をこの世界に留まらせた。
不機嫌な夫に寄り添いながら、ブルマは心の中でつぶやいた。
「これから、 楽しみね ・・・。」