114.『居場所』

[ 絵師さまのイラストからイメージしたお話です。]

昼の近いC.C.

長い廊下を歩いていると、後ろに人の気配を感じた。

足音を抑えながら近づいてくる。

「おまえの後ろをとったぞ。」

 

俺の両肩に手を置いて、ブルマが言う。

何のつもりか知らないが、声色まで変えている。

「くだらん。」

「ねぇ、今日は幼稚園のお泊り会だから、ブラはいないのよ。」

・・・今日だったか。

 

「トランクスもどうせ遅くなると思うし。

 たまにはどこかに出かけない? ねぇ、いいでしょ・・?」

「他のやつを誘え。」

肩に置いている手を、ブルマは離さない。

「あんたと行きたいのに・・・。 ねぇ、 じゃあ、 おんぶして。」

なんだ、 それは。

「知らないの? 背負うことよ。 こんなふうに・・・ 」

両手はそのままで、ブルマが背中に飛びついてくる。

反射的に両脚を支えてしまう。

「わぁー。 抱っことはまた違って、新鮮。」

 

チッ、 なんだってこんなことさせられるんだ。

「降りろ。」

「いいじゃない、 少しだけよ。  最近、ブラばっかりずるいわ。」

抱えてやることはあるが、こんなふうに背負ったことはない。

 

ブルマの指先が、髪に触れる。

「あいかわらず、固くて多くて、真っ黒ね・・・。」

この女はしょっちゅう話題を変えてくる。

わざとなのか、無意識なのか、よくわからない。

「これ、白髪になったりするの?」

「知らん・・・ 」

ブルマを背負ったまま、仕方なく数歩歩く。

 

年老いた自分の姿など、これまで考えたことがなかった。

物心ついた頃からフリーザ軍に籍を置いていた俺は、

目にしたことのある同胞も、実は限られていた。

 

いつの間にか、ブルマのおしゃべりがやんでいた。

置かれていた手がはずれ、肩に両腕がまわっている。

「・・どこに行けっていうんだ。」

「あんたの行きたい所でいいわよ。」

小さな声でそう答える。  息が、首筋にかかる。

体を押し付けているのが、わざとなのか、無意識なのか、よくわからない。

 

行きたい所だと・・・?

ある部屋に足が向いた、 その時。

襟首に、しずくが落ちたことに気づいた。

 

「昔、ブラくらいの頃、よく父さんにこんなふうにおんぶしてもらったわ・・・。」

 

俺は、足を止めた。

「あんたの背中、 あったかいわね。」

 

「降りろ。」

「えーーっ、 なによ・・・ 」

「出かけたいのなら、さっさとしろ。」

俺の言葉で、ブルマは瞳を輝かせる。

 

「ほんと? いいの? それなら、着替えてくる。」

「5分以内に来ないのなら、行かんぞ。」

「じゃあ、 お化粧だけ直してくるわ。」

そう言って、ブルマは小走りで階下に降りて行った。

 

どこかでおいしいお昼ごはんを食べて、

幼稚園でブラの様子をこっそり覗いて、

それから久しぶりにお墓参りをしてあげなきゃ。

ベジータを連れて行ったら、父さんも母さんも喜ぶわね・・・。

 

その後は、こう言うつもり。

「あんたの行きたい所でいいわよ。」

きっと、あいつはこう言うんだわ。  

 

『 じゃあ、 帰るぞ。』

 

あいつの行きたい所。  居たい所。

それは、 きっと、 この・・・

 

「早くしろ。」

せっかちな夫に声をかけられる。

「今、 行くわ。」

 

返事をしながら、わたしは急いで部屋を出た。