339.『キッチンの攻防』
「お昼ごはんができたわよ。」
トランクスと一緒に孫家に遊びに来ていたブラが、兄たちを呼びに来た。
一人前にエプロンを着けている。
幼稚園でも仲の良い、同い年のパンと一緒に昼食作りを手伝っていたらしい。
エプロン姿について何か言ってほしくて、
小さな彼女は先ほどからチラチラと視線を送り続けている。
兄ではなくて、その親友、 この家の次男坊に。
トランクスと悟天の旺盛な食欲に、料理をしたチチだけでなく
手伝いをした幼女二人も大いに満足する。
「おいしかったでしょ?」 「お手伝い、がんばったんだから。」
空いた皿を下げたあと、
パンとブラは先を争うようにして、テーブルの上にデザートを用意した。
「おめえたちも、座って食べろ。」
チチの言葉で、幼女たちも席に着く。
すると 「あーんして。」 と、パンの声が聞こえた。
カットしてある果物を、その小さな手でつまんで
隣に座るトランクスの口元に運んでやろうとしている。
別段照れることもなくトランクスは、彼女の手から果物を口にした。
パンが笑顔になる。
「ママね、 パパに時々こうしてるんだよ。」
「いつまでも、仲がいいだな・・・。」
笑う母の顔を見ながら、悟天はあることを思い出していた。
おとうさんがいつもの調子でパクパク食べてた時、
おかあさんがちょっとだけ怒った。
『あとの人のことも考えて食べねえと。』
そしたらおとうさんが、
ひとつだけお皿に残ってた何かを手でつまんで、おかあさんの口に入れてあげたんだ。
おかあさんはふくれっ面をしながらも、なんだかとってもうれしそうだった・・・。
隣で悟天の顔をじっと見ていたブラは、
何を思ったか椅子から降りて、彼の膝の上に乗った。
そして果物を自分の口にくわえて、彼の口元に向けて
「ん。」 というふうに、突き出した。
あっけにとられた皆に、兄であるトランクスが説明した。
「・・・すいません。 うちの母は、父によくこうしてるんです。」
「・・・ホント、 いつまでも仲がいいだな・・・。」
少々ひきつった笑顔でチチが答えた。
帰る時間が近づいてきた。
ブラは借りたエプロンが気に入ってしまって、はずしたくないようだ。
「持って帰っても構わないんだが、それはパンのお古だからな・・・ 」
誕生月の早いパンは、ブラよりも少し背が高かった。
「おばちゃんが、ブラちゃんに似合う色で、新しいのを縫ってやるだよ。」
「ほんと! わたし、またお料理がしたい。 ねぇ、 いいでしょ・・・。」
「いくらでも教えてやるだよ。 パンも一緒に、おやつでも作るといいだ。」
「おばちゃんだってさ。 おばあちゃんでしょ。」
軽口を言った次男を小突きながら、チチが笑って言った。
「ここで教わって、ブラが料理上手になってくれれば助かるなぁ。」
切実そうにトランクスがつぶやいた。
家の外まで見送りながら悟天が尋ねる。
「ブルマさん、料理苦手なんだっけ?」
「苦手なんてもんじゃないよ・・・。」
ママの作ったものを食べて、無事で済むのはパパだけだ。
ホント、あれを考えると、パパには絶対に敵わない、って思うんだよな。
「そこだけは、ママに似なきゃいいんだけどな・・・ 」
母親に生き写しの妹を見ながら、トランクスがぼやく。
「ま、苦手でもいいんじゃない。
調理ロボットだってあるしさ。 お金持ちとケッコンすればさ。」
笑ってそう言った悟天を、ブラが睨んでいたことを彼らは気付かなかった。
兄が操縦する、帰りのジェットフライヤーの窓から孫家を見降ろしながら
ブラは心に決めていた。
わたしは、お料理が上手なおかあさんのいるおうちに、お嫁にいくのよ。
決意したことを決して、決してあきらめない。
幼い彼女が、その性質を父親からしっかり受け継いでいるということを
皆はまだ、気づいていないのだった。