『この世に二人だけ』

未来編のお話です。 あまり克明な描写はしていないと思いますが、

イヤな場面がありますのでご注意ください。ラストは公式カップルです。]

「トランクス! トランクス!!」

泣き叫びながら 息子の死体にすがりつく母親。

17号が、ついにトランクスをやっちまった。

 

トランクスの母親、 ブルマ。

C.C.の一人娘で、そうは見えないけど科学者だった。 

ちょっと尋ねたいことがあって、あたしは声をかけてみた。 

「ねえ。」

ブルマが顔を上げ、怒りで血走った目をこちらに向ける。

変わった色の髪は乱れ、 頬も、服も、息子の血で汚れている。

「近頃、全然 人間の姿が見えないんだけど。 一体どこに隠れてるのさ?」

「・・・みーんな、死んじゃったわよ。」

 

息子の死で 気でもふれたのか、まるで歌うようにブルマは答える。

それを聞いた17号が、口を挟んできた。

「嘘だろ。 最初の頃はともかく、ここ何年かは ちゃんと加減しながら遊んでたんだぜ。」

「直接 手をくださなくたってね、建物や土砂の下敷きになったり、火災に巻き込まれたり・・・

声が低くなり、震えだす。

「病気だってはやったわ。 トランクスに守られていたわたしが、最後の一人かもしれないわね。」

 

「ホントかよ・・。 ちぇっ、弱っちい奴らだな。」

毒づいた後、17号は何かを思い出したようだ。

「おまえ 確か 何年か前に、でかい乗り物を作ってたよな。」

ブルマはすぐには答えを返さず、 死んだ息子の顔を見つめる。

「あれは何だったんだ? 宇宙船か? 息子と地球を脱出するつもりだったのか?」

「タイムマシンよ。」  顔を上げずに答える。

「わたしの、最後の希望だったわ。 あんたたちに、滅茶苦茶にされたけどね・・。」

 

「タイムマシン! 過去の世界に行けるっていう、あれか。 そりゃあすごいな。」

17号が、目を輝かせる。 あんな顔をするのは久しぶりだ。

「そんな話、信じるのかい?」 あたしの言葉にも、耳を貸さない。

「ブルマ、おまえは生かしておいてやる。 おれたちにタイムマシンを作れよ。

やったな、これで永久にゲームを楽しめるぞ。」

 

「そんなこと、 」 つぶやくような声。 

「わたしが承知すると思うの? バカなお人形さんたち。」

「なんだと・・?」 

怒りをあらわにした17号にも ひるむことなく続ける。

「あんたたちはね、何年もかけて 人間だけじゃなく地球そのものを殺してしまったのよ。」

・・・?  ポケットから、何かを取りだした。

「水も空気も汚れてしまって、今じゃ動物もほとんどいないわよ。 

よかったわね。 二人だけで、いつまでも仲良く暮らすといいわ。」

それを、素早く口に含む。 17号に向かって、あたしは叫んだ。

「こいつ、口になんか入れたよ。」 

「なんだって?毒か? くそっ・・ 吐き出させろ。」

 

掴みかかって背中を叩いたけれど、遅かった。

苦しみの表情を浮かべて間もなく、ブルマは死んだ。

一人息子の死体の上に、覆いかぶさるようにして。

 

 

2か月ほどが過ぎた。

「あの女の言ってたこと、嘘じゃなかったみたいだな。」

地面に降り立った17号がぼやく。 

あれから一度も、生きてる人間を見ていない。

このところ、空はずっと気味の悪い色をしていて、雨が降るとおかしな臭いまでする。

壊す街が無くなってから 仕方なく、はずれにあった大きな施設をいくつか爆破した。

今思えば、あの爆発の仕方は、いつもと 何か違っていた・・・。

 

「どうすんだよ。 鳥も動物も見当たらないし、なんだか水もやばいよ。」

「どうにかなるさ。 おれたちは、飲まず食わずだって死にやしないんだ。」

・・・それだって、ずっとってわけじゃない。

あたしたちはロボットじゃないんだ。 

いずれ 改造されてない生身の部分が、障害を起こしてしまうだろう。

 

そう言いかけたあたしの肩を、17号が引き寄せる。 

「何するんだよ。」

振りほどこうとしたら、ますます強く抱きすくめられる。

「やめろ。 離せ・・・ 」 「いいじゃないか。久しぶりにやらせろよ。」

 

地面の上に組み敷かれる。 

改造によって与えられた能力は、あたしも17号も同じはずだ。

なのに力の差があるのは、くやしいけれど 男と女だからだろう。

「いやだ。 そんな気分じゃないよ。」 

「おれはおまえが欲しいんだ。 今すぐ、お前の中に挿れたいんだよ。」

 

逃れようと身をよじる あたしの服を引きちぎり、無理やりに入ってくる。

「ああ、 やっぱり最高だな。 だっておれたち、もともと一つだったんだもんな。」

これをしている最中、17号はいつも同じことを言う。

「男と女の双子は、おんなじ日に生まれたきょうだいだっていうけどさ、

おれたちは違うよ。 だって、こんなにそっくりなんだからさ・・・。」

「ねえ、どいてってば。 あたしは もう、したくないんだ。」

 

 

少し前のことだ。  来るべきものが、来なくなった。

不安を口にしたあたしに、17号は こう言った。

『ガキ? おれたちにか?』 

意外そうに、でも まるで、新しいオモチャでも見つけたような顔で。

『へえ。 おれたちにも、ガキなんてできるんだな。 まぁ、セックスできるってことは可能なのか。』

感心したように、一人うなずいている。 

あたしは尋ねた。 『・・どうすんだよ。』 

『やっぱりおんなじ顔してんのかな。 おもしろいな、産んでみろよ。』

『人ごとだと思って・・・ 冗談じゃないよ。 その後どうする気だ。』

カッとなった あたしに向かって、17号はこんなふうに答えた。

『放っておけばいいだろ。 おれたちを産んだ女みたいにさ。』  ・・・

 

 

「イヤだったら。 もう、やめろ。 どいて・・・」

つながったまま17号は、あたしの顔を覗き込んでささやく。

「ダメだよ。 イヤだったら、おれを殺せよ。」 「・・・!?」

目をむいたあたしに、さらに続ける。

「おまえになら、いいよ。 このまま、消えちまおうぜ。 ボロボロの地球と一緒にさ。」

・・そうだな。  それも、いいかもしれない。

17号の下で あたしは、自由になった両腕を伸ばし、エネルギーを溜め始めた・・・。

 

 

「18号、 18号。」 クリリンの声で あたしは目を覚ました。

「大丈夫か。 ひどくうなされてたぞ。」 

夢か・・・。 一体、何だったんだ、あれは・・・。

「汗かいたんじゃないか? 着換えろよ。」

ベッドから下りたクリリンは 引き出しを開けて、新しいパジャマをあたしに手渡す。

「今、水を持ってきてやるからな。」 

そう言って、部屋を出ていく。 ホントにまめな男だ。

 

落ち着いてから、あたしたちは再びベッドに入った。

この家で暮らすようになってから、あたしはクリリンと同じ部屋で寝起きしている。

だけど、あれをしたことは まだ無かった。

 

「ねえ。」 ライトを消した暗闇の中、隣にいるクリリンに話しかける。

「ん? どうした?」 「あんたさ、 あたしと したくないの?」 

「え・・・ いや、その、そういうわけじゃ・・  」 言葉に詰まっているようだ。

「したっていいよ、別に。」  男の元に転がり込んだからには、覚悟をしていた。

「うーん、 あのさ・・・。」 一旦言葉を切ってから、クリリンはあたしに言った。

「おまえの方から したい、って言ってくれるまで待つよ。」

 

・・・まったく。 信じられないお人よしだ。

「フン、そんなこと。 死ぬまで言ってやるもんか。」 

「それでもいいよ。 死ぬまで一緒にいてくれるんなら。」

 

平和な地球の、静かな夜は更けていく。

二人が身も心も結ばれ、新しい命が生まれる日は もう、そこまで来ていた。