『告白』
[ ブルマの晩年のお話の中で、彼女は長男のトランクスにだけは
自分の病気のことを打ち明けています。その模様を書いてみました。
これを読んでいただいたあと、トランクス×パンをお読みいただけますと
よりお楽しみいただけるかも・・しれません。]
おれがC.C.社の社長に就任してからも 母さんは何かとサポートしてくれていた。
だから実際に引退したのは、ほんの2〜3年前のことだ。
若く見えるとはいえ、勤め人ならば定年を迎えるような年齢になっていた。
株主総会が行われた日、母さんは久しぶりに会社を訪れた。
無事に終わった後、家に帰ろうとする母さんを見送るために おれも外に出た。
「じゃあね、お先に。」
手を振って 車に乗り込もうとした次の瞬間、母さんの体は大きくよろけた。
「母さん!!」 抱き起こしたその体が、あまりに軽いことにおれは驚いた。
「病院へ・・ 」
運転手に言いかけると、母さんが口を開いた。
「大丈夫よ・・ 薬を飲み忘れちゃったの。 ちょっと休めば よくなるわ。」
「じゃあ、とりあえず家に。 おれも一緒に戻るよ。」
青白い顔、 苦しげな表情で、母さんはきっぱりと言った。
「家は駄目。」
・・またか。
母さんは いつまでも若いままの姿の父さんに衰えた姿を見せることを、何よりも嫌がるのだ。
「わかったよ。」 おれは運転手に向かって命じた。
「Aホテルに行ってくれ。」
ここは、おれが常宿にしているホテルの部屋だ。
「いいお部屋ね。 窓からの眺めも最高だわ。」
薬を飲んだ後、ベッドに横になっていた母さんは どうにか落ち着いたようだ。
「そんなことより・・ 前から具合が悪かったんじゃないの? どうして、ちゃんと話してくれないんだよ。」
「ごめんね。 あんたには、もう言わなきゃって思ってたの。 いい機会だから話すわ。 あのね、 」
体を起こし、ベッドの上に腰かけた形で母さんは続ける。
「わたしね、 もう、 長くないのよ。」
しばらくの間、おれは声が出なかった。
「・・何、 言ってるの?」
「あんたのおばあちゃんと おんなじ病気よ。 そういう体質なのかもね。」
あんたやブラも、気をつけなきゃね。 だけどサイヤ人は、そんな病気にはならないのかしら。
付け加えられた言葉が、ひどく遠い場所で発せられているように思えた。
「手術、すれば・・。」
「もう、完治はしないんですって。 だったらいいわ。 入院も、ギリギリになるまでしないつもりよ。」
「でも、 それじゃあ、 」 遺されてしまった父さんは、どうしたらいいんだよ。
喉まで出かかった言葉を飲み込む。
「C.C.社の方は 社員のことを第一に考えてくれさえすれば、後はあんたにまかせるわ。
わたしも会社を継ぐ時、父さんにそう言われたの。」
いつもと、まるで変わらない様子で話し続ける。
「ブラには折を見て、わたしから話すことにするわ。 あの子は まだ、高校生だもんね。
いろいろ相談にのってあげてね。 ケンカばかりしちゃダメよ。」
「・・あいつの方からふっかけてくるんだよ。」
「甘えてるのよ。 わかってあげなさい。」
そして、母さんは言った。
「わかってると思うけど、ドラゴンボールを使おうなんて考えないでね。」
亡くなった自分の両親・・ おれが大好きだった おじいちゃんとおばあちゃんと、まったく同じことを。
「これは寿命だから。 もう、そういう年なのよ。 いつまでも若いままの人といると、忘れちゃうけどね。」
寂しそうな笑顔。 おれは、あえて口にする。
「ドラゴンレーダーは、家のどこに仕舞ってあるの?」
母さんが、伏せていた目を上げた。 「一応、聞いておくだけだよ。」
「そうね。」 小さく うなずいてから、母さんは答えた。
「ベジータが知ってるわ。」
「わかった。 わかったよ。 でもさ、そのかわり・・ おれの頼みも聞いてよ。」
母さんがおれの顔を見る。 「あっ、そうよね。 なあに?」
しわが増えただの何だのと、しきりに嘆いているけれど、昔とちっとも変らないように おれには見える。
父さんも きっと、そう思っているんだろう・・・。
「ねえ、何よ。 わたしに、できること?」
「・・母さんじゃなきゃ、できないよ。」
聞いてほしいんだ。 おれのそばから永遠に消えてしまう前に。
どんな女と付き合っても 続かなかった理由。
おれは、母さんが好きだ。
自分の母親が好きなのなんて、当たり前だ。 だけど、そういうことじゃない。
どうして そうなっちまったんだろう。
おれの体に半分流れる サイヤ人の血のせいなのか、
それとも おれが父さんに似すぎているからなのか。
母さんがベッドから立ち上がった。
窓辺に突っ立って、黙ったままでいた おれの方へ近づいてくる。
「届かないわ。 ちょっとかがんで。」
言うとおりにしたおれの頬に、額にキスしてくれる。 子供の頃と同じように。
そして、両手で頬を包んで 唇を重ねた。 とても優しく、 そっと短く ・・・。
「愛してるわ、トランクス。」
息子として。 母さんは そう言わないでくれた。
華奢な肩を抱き寄せる。 おれたちは長いこと そのままでいた。
おれの腕の中で、母さんは小さくつぶやいた。
「幸せになるのよ。」
わたしと、同じくらいにね。