『MILKY』
そう大きくはない。 けれど、小さくもない。
形は悪くないし、 さわり心地も なかなかのものだ。
あたしの胸のことだ。
これまでに、あたしを抱いた男たち・・ 二人しかいないけど、
普段は口の悪い あいつらも、そんな言葉で ほめそやしていた。
その自慢の胸に 顔を埋めるようにして、この男ときたら 呑気に寝息をたてている。
サイヤ人の中でも、突然変異のように ぶっとんだ力を持っている男、 ブロリー。
生き残りだったという こいつは、どうやら 相当変わり者のようだ。
だってさ、 当然 ヤられちまうと思ったのに・・・。
「ヘンな男。」
怒らせたって構わない。 髪を引っ張って起こしてやろう。
そう思った、ちょうど その時。
今いる この場の空気が、さっと変わるのを感じた。
同時に、爆発音が 耳をつんざく。
「・・・!」 あいつらだ。
「いたぞ、バーダック。 あそこだ。」
トーマの奴だ。 でかい声。 姿が見えなくたって、すぐに わかる。 それに・・・
「待ってろ、 セリパ。」
あたしを心配する素振りを見せるのは、 いつだってトーマの方だった。
足手まといになるのは御免だ。
エネルギー波の応酬をかいくぐり、どうにかして逃れようとする。
なのに、 「!!」 体が宙に浮いた。
あっという間に、ブロリーの 丸太のように太い腕に捕らえられてしまう。
「くそっ、 離せ!」
振りほどこうと もがいても、足をばたつかせて 思い切り蹴りを入れても、びくともしやしない。
おまけに この ブロリーという男、怪力だってだけじゃなくて 動きも素早い。
あたしを助けにやって来たトーマ、そしてバーダックに とどめをさすことをせず、
ブロリーはどこかへ飛んで行く。
猛スピードで、 肩にあたしを担いだままで。
「どこだよ、 ここ・・。」
ずっと担ぎあげられていた あたしは、ようやく地面に下ろされる。
着ていた物は さっき、ほかならぬ この男の手によって ぼろきれにされちまった。
だから あたしは裸も同然、 ひどく無防備な姿だった。
この男、ブロリーは何も言わずに 再び あたしを仰向けにする。
ずいぶん飛んでいた。 地獄での暮らしも結構長くなったけど、ここは一度も来たことが無い。
スカウターを持っていない あいつらに、果たして追って来られるだろうか。
どうせヤられちまうなら その現場を、あいつらが、あいつが目にすればいい。
ほんの僅かでもいい。 表情を動かすところを見てやりたい。
それなのに・・
あたしの上に覆いかぶさる こいつときたら またしても、自慢の胸を枕にしようとしてやがる。
「ちょっと! 何すんだよ!! バカにしてんの?」
ボサボサの髪を掴んでやると、 うるさそうに顔を上げた。
「いきなり こんな・・。 女に対して失礼なんだよ。」
そうだよ。 大酒を喰らった後の あいつらだって、もうちょっとマシだった。
あたしの剣幕に、ブロリーは困惑したように言葉を返す。
「何を言ってるのか わからん。」
「・・・。」
この男、もしかして 女を抱いたことが無いのだろうか。
まさか。 ガキみたいな奴なら ともかく、こんな立派な図体をして・・・。
ああ、 そうか。
あたしみたいに、 ものを言って 動ける女を相手にしたことが無いのかもしれない。
あたしと ああなる前のトーマも、そうだったらしい。
恐怖のために血の気の失せた、生きているのか死んでいるのか わからない女。
そういう女としか、交わったことがなかったと言っていた・・。
「しょうがないね。 わかんないなら教えてやるよ。」
腕に力を込めて、体勢を入れ替える。
恐るべきパワーを秘めているはずの男は 複雑な表情で、それでも黙って従っている。
あたしは いつもの手順通り、男の下半身に 手を伸ばした。
小手調べのつもりで そっと さすってやると、みるみるうちに太さと固さを増してくる。
素直な反応と、 男がおとなしくしていることに 気を良くしたあたしは、
さっそく それを口に含んで、サービスしてやることにした。
大きい。 あたしが これまでに知っているものよりも、ずっと。
仕方ないから先端だけを、舌と唇を使って強めに刺激し、あとは両手で さすってやった。
しばらく経った。 そろそろ いいだろう。 仰向けに寝そべっている男の上に、またがろうとする。
だけど、 その前に。
「ねえ。 あたしのも、ちょっとは ほぐしてよ。 寝てばっかいないでさ。」
「・・・。」
やっぱり わからないのだろうか。
あたしは男の手をとって、その指先を脚の間・・ 襞の奥に当てさせた。
「ほら、 こうやって・・、 」
まったく。 指一本すら動かそうとしないから、仕方なく 自分で腰を振った。
快感が駆けあがってくる。 「あ、 あ・・・。」
ため息を漏らす あたしの顔を、男は 下から じっと見つめていた。 ぼそりと口を開く。
「濡れてるぞ。」
ちょっとだけ、 あたしは笑ってしまった。
「気持ちいいと こうなるんだよ。」 そんなことも知らないの・・・。
怯えて 強張った、死体みたいな女に無理やり突っ込むよりも、
十分に潤った 温かい女に挿れてやる方が 何千倍も気持ちがいい。
あたしに そう言ったのはバーダックだ。
あたしの、最初の男。
初めて あいつに抱かれたのは、まだ ほんの小娘だった頃だ。
チームの中に女が一人、紅一点である場合は、リーダー専用になることが多かった。
そうじゃなければ、メンバー全員に兼用される。
あたしは その、どちらでもなかった。
バーダックは何故か、ナンバー2となったトーマにも あたしを抱く権利を与えた。
トーマは いい奴だ。
ああいう始まりじゃなかったら、 あいつ、バーダックのいない所で知り合っていたら、
あたしは きっと、すんなりと惚れていたと思う。
戦いに明け暮れていた頃は、あまり考えることも無かった。
だけど、地獄に来てからは・・・。
振り切るようにして、男の上に またがった。
激しく 腰を動かす。
バーダックでもトーマでもない、だけど長い尻尾を持った、同じサイヤ人の男の上で。
「ああ・・・っ!」 のぼりつめて、崩れ落ちる。
一人で勝手にいくんじゃねえと、あいつだったら怒るだろう。
けれども こいつ、ブロリーは もちろん、そんなことは言わなかった。
それから間もなく、 あたしよりも少し遅れて、この男も達したようだ。
低い呻き声とともに。
内腿に流れ落ちる、乳白色の液体。
最奥を目がけるかのように男が放ち、なのに 全てを受けとめきれずに流れ出る。
それを見るたび あたしは、あるものを思い出すのだ。
子供を産んで間もない女の、乳房からにじんでくるという 液体。
どうやら あれは、生まれてきた子供が 懸命に吸いつくことで、より多くあふれ出てくるものらしい。
だから、子育てをしないサイヤ人の女は すぐに枯れて止まってしまう。
だけど ごくまれに、そうではない女もいたという。
吸いついてくるはずの赤ん坊は とうに手元には、
悪くすれば この世のどこにも もういないというのに、
いつまでたっても 止まらない・・・。
どうして、こんなことを思い出すのだろう。
バーダックの子を二人も産んだ女のことが、うらやましいのだろうか。
それとも。
あれほど何度も抱かれていたのに、一度も孕むことがなかったことが悔しいのかもしれない。
今のあたしは、地獄の住人だ。
ここでは いくら男と交わろうが、孕むことなんて無い。
はっきりと聞かされたわけじゃない。 だけど、きっと そうだと思う。
だって、死人が赤ん坊を産むなんて、どう考えても おかしいから。
「気が済んだか。」
自分だって満足したのだろうに、ブロリーはそんな言い方をした。
そして またしても、あたしの胸に顔を埋めて寝ようとする。
「結局 それかよ・・。 痛っ!」
微かな痛みが走る。 男が、胸の先端を口に含んで吸いついたのだ。
「まったく・・! ヘンな男。」
手を伸ばす。 だけど 掴むかわりに、髪をそっと撫でてみた。
「赤ん坊みたいだよね、 あんたって。」
何も答えない。
この男は また、さっさと眠ってしまうのだろうか。
だったら 今度はあたしも、一緒に 眠ってやろうかと思う。
これから どうなってしまうのか、まるで わからない。
だけど 目が覚めたら、もう一度 名前を教えてみよう。
そんなことを思いながら、あたしも瞼を閉じた。