011.『子どもたちにはナイショ』

強めの雨が降り出してきた。

日光浴と読書(?)を楽しんでいた亀仙人がチェアをたたみ、

18号がマーロンの砂場道具を片付けていると、空から二つの人影が降りてきた。

「こんにちはーー。」 

 

雨でびしょ濡れになった、トランクスと悟天だった。

「競争してたら、こっちの方まで来ちゃって・・・。  ちょっと雨宿りしてもいい?」

 

入るよう促されてカメハウスに駆け込んだ二人に、

退屈していたマーロンが、人形遊びをしようと誘う。

「えーっ、そんなのやりたくない・・・」 

トランクスが言いかけたが、

タオルを貸してくれた18号の鋭い視線に気付いて、言うとおりにした。

 

「あたしがおかあさん、トランクスくんがおとうさん、悟天くんが子供の役ね。」

マーロンがうさぎの人形を二人に手渡し、小さな家具を並べてままごとを始める。

「・・はい、夜になりました。もう寝ましょう。 悟天、いらっしゃい。」

そこへトランクスが口を挟んだ。

「え?子供は別の部屋だろ?」

「えー?あたしはおとうさんとおかあさんと一緒よ。」 

「ボクもだよ。」

 

家事をしていた18号が、聞き耳をたてる。

「そうなのか?おれはパパとママの寝室に入れてもらえないよ。

 一緒に寝た時も、朝になると自分の部屋のベッドに戻されてるんだ。」

 

その時、ままごとに飽きた悟天がマーロンの絵本をめくった。

王子様が、白雪姫をキスで目覚めさせる場面のページを広げ、

「あー これ、こないだ寝てる時、おとうさんがおかあさんにしててね・・・」

と言いかけると、

「あっ、おれなんか大変だったんだぜ。」

トランクスが悟天の言葉を遮って話し始めた。

 

「ママが時々ふざけて、おれにそんなふうにチューするんだけど、

 こないだパパにそれ見られちゃって・・」

18号の手は完全に止まっていた。

「パパ、機嫌悪くなっちゃってさ。

 ママとずっとケンカしてたけど、夜 おれが寝る頃、

 ソファで、二人でそんなふうに、ぶちゅーーって・・・」

 

居眠りしていたはずの亀仙人が大きくせき払いをし、

ほおを赤らめた18号が「あっ・・ 雨、あがったみたいだよ。」 とあわてて声をかけた。

きょとんとしていたマーロンはおもちゃを箱に片付け、悟天とトランクスも手伝った。

 

「お邪魔しました。さようなら。」 

飛び去ろうとする二人に18号は、

「両親が仲良くしてる時は、そっとしてあげるんだよ。

 そうすれば、子供のほうも幸せになるんだからね。」

と、 静かに諭した。

 

いつもは自分の方から話しかけてこない彼女の言葉に、

二人の少年はわからないながらも深くうなずいた。

 

 

その夜。

しっかりと母親の言葉を聞いていたマーロンは

今日から一人で寝ると言い出して、何も知らないクリリンを慌てさせ、

トランクスはTVもそこそこに自室に引っ込んだ。

 

「おやすみなさい。 ジャマしないからね!」 と、謎の言葉を両親に残して。

 

そして、部屋数の少ない孫家では

悟天は兄の部屋で寝ると言って譲らなかった。

 

参考書とノートを広げていた悟飯が、布団にくるまった弟に尋ねる。

「机のライト、まぶしくないか?  なんでこっちで寝るなんて言ったんだ?」

悟天は今日のことを話した。

「そうかぁ・・・。 まあ、おとうさんは家にいない時が多かったからね。

 二人きりにしてあげた方がいいかもしれないな。」

 

優しくうなずく兄に、悟天は続ける。

「それでその時、おとうさんとおかあさんにね、

 兄ちゃんとビーデルお姉ちゃんも、

 公園でそんなふうにしてたの見たって言っちゃったんだ・・。」

絶句する悟飯。

 

「おかあさんがすごーく怒って・・・

 おとうさんが、まぁまぁ夜中だから・・・って・・

 もう・・ 言わない・・・ よ・・ 」 

だんだんとゆっくりになった話し声が、寝息に変わった。

 

わが子に気を使わずにしっぽりと過ごせることになった三組の夫婦とちがい、

18歳の青年だけは、勉強どころではなくなって冷や汗をかいていた。