014.『お気に入りの服』
似合うとかキレイなんて、言ってくれなくたっていいの。 何故ってそれは・・・。
C.C.の一室。
備え付けのバスルームを更衣室にしていた18号が、鮮やかな色のワンピースを纏って出てきた。
「わぁー・・ステキ。いつもジーンズだけど、こういうのも似合うわよ。」
「クリリンさ、見とれちまうだろうなぁ。」
ブルマとチチに絶賛され、18号は照れてうつむきながら
「でもこんな高そうな服、ほんとにもらっていいのかい?」と尋ねた。
「あっ、いいのいいの。 仕事でイライラしてた時、サイズも確かめずに買った服ばかりなのよ。
チチさんも着てみてよ。 これなんかどう?」
ブルマが、ラックに20着近くかけられたうちの1着を渡そうとするとチチは、
「おらは、あんまり短いのは・・その、悟空さが・・」と、口ごもってほおを赤らめた。
「えっ?孫くんって何か言うの? 脚見せるなとか? ヤキモチやくんだ!!」
「あ・・ いや、だいぶ前・・ 若い頃の話だ。」
チチは、もっと赤くなったほおを両手でかくした。
男女の区別すらできなかった孫くんがねぇ・・と心の中でつぶやきながら、
ブルマは丈が長めのドレスを薦め、チチも着替えた。
よく似合うわ。黒髪に映えるわよ。 そうだべか・・・。
などといったやりとりの途中で、18号がブルマに向かって口を挟んだ。
「あの男・・・あんたのダンナ。」
「え?べジータのこと?」
「そう・・。あんたがオシャレした時、ほめることなんてあるの?」
今日ここを訪れて廊下で見かけた時の、
不機嫌そうな彼の様子を思い浮かべて18号は聞いた。
「あるわけないじゃない。」 あっさりとブルマは答える。
「あいつが誰かをほめるなんて・・・ 戦闘の時・・それも皮肉じゃないの。」
その時、ノックもそこそこに子供たちが部屋になだれ込んできた。
マーロンが女の子らしく、いち早くワンピース姿の母親を見つけ
「おかあさん、キレイ・・」 と目を輝かせて、18号もうれしそうな表情になった。
悟天はいつもと違う装いの母に「どっかお出かけするの?」と尋ね、
かわりにブルマが「おうちに帰っておとうさんに見てもらうのよ。」
と答え、小さめの声で「おかあさんキレイでしょ。って、教えてあげてね。」と 付け加えた。
その後、トランクスが
「ママ、おばあちゃんが呼んでたよ。
お茶にするけど、給仕ロボットが調子悪いから来てって。」
と告げ、そそくさとブルマが中座した。
庭に出したというテーブルに皆で向かう際、チチがトランクスに話しかけた。
「あんたの父ちゃん・・ベジータは、
ブルマさがキレイにしてても、何も言ってやらねえのか?」
「いっつも下品だって言うよ。 あとは、わからんとか。
こないだ興味ないって答えた時、ママが、
あんたが興味あるのは中身だけね。って言って・・」
トランクスの言葉に悟天とマーロンが「中身ってなんのこと?」と騒ぎ出し、
母親たちは、テーブルに用意されたケーキや、たくさんのデザートに目を向けさせるのに苦労した。
その夜。 夫婦の寝室でブルマは夫に尋ねた。
「ね、 これどう?」
紫がかった濃いローズ色の、シルクのスリップ姿で。
「・・下品だな。」 一瞥したベジータが仏頂面で答える。
「下品でもいいじゃない?あんたしか見ないんだから。 似合う?」
「わからん。」
いつも、いつでも決まってるやりとり。
だけどこの人、しっかり見てるのよ。
ほめることは 絶対にないんだけどね。
戦闘服以外の服は、包装だとでも思ってるみたいよ。
だって、急いで包みを開けようとする子供みたいなんだもの・・・。
だけど、これは誰にもナイショ。 わたしだけの秘密よ。