017.『くらくら』

TVで豪邸訪問を見ていた時、浴室に立派なサウナルームがついていたことから

思いつきました。

会社から、遅めの帰宅をした。

でも それほど疲れてはおらず、一時よりは ずいぶん、体が軽い気がする。

ここしばらく続いていた忙しさが、一段落したせいもある。 けど、それだけではない。

実は最近、わたしは ある物に はまっている。

 

寝室に設えられたシャワールームを別にしても、この家にはバスルームが複数ある。 

そのうちの一個所を、迷わず選ぶ。

ドアを開く。 ここは おそらく、一番広いのではないだろうか。 

でも どうしてか、これまで あまり使わずにいた。

髪と体を さっと洗い、大好きだった温浴も早めに切り上げて、

もう一つあるバスタブに、ごく ぬるいお湯を張った。

こうしておくと 出てくる頃には、冷たすぎず いい感じの水風呂になっているのだ。

 

その時。 ドアが開く音がした。 誰!?

なーんて、聞かなくたって わかっている。

「なによ。 待てなくて、来ちゃったわけ?」 

「チッ、誰が…。 風呂に入り忘れただけだ。」

「へえっ、 シャンプーの匂いがするみたいだけどね。 … あっ、ダメよ、そっちは!」

言い終えるよりも早く、ベジータが叫んだ。 

「! なんだ、この ぬるい風呂は!!」

そう。 わたしが はまっている物、それはサウナだ。 

この浴室の一角には、サウナ室が設置されている。

彼が入ってしまった それは、出た後の体を冷ますための、冷たすぎない水風呂だった。

 

「少し前にね、出張先のホテルで薦められて、はまっちゃったの。」

興味なさげな、彼に向かって続ける。

「体温を上げるのって いいみたいよ。 体に抵抗力がつくんですって。 

それに何たって、汗をかくことはお肌に いいもの。」

「くだらん。 風呂だけで十分だ。 汗をかきたいなら、体を動かせばいい。」

「そんなこと言って。 暑いのが苦手なだけじゃないの?」

「何だと! そんなわけがあるか!」   

… 以下略。

そういった やりとりを経て、わたしたちはサウナルームに入った。

 

ここも もちろん、C.C.社製のシステムだ。 ドアを閉めるやいなや、室温が上昇していく。

「わたしもね、あんまり暑過ぎるのは好きじゃないの。 だから ここでは、75度くらいに抑えてるのよ。」

「75度? 抑えてる、だと…?」

それ以上は口にしない。 でも何だか、いつも以上に顔つきが険しい。 

本当に、高温が苦手なのかもしれないわね。

「まあ、ぼーっとしてても つまんないし、TVでも観ましょうよ。」 

壁面のパネル操作で、モニターが現れる。

チャンネルを、あちこち替えてみたけれど、どれも あんまり面白くない。

そうだわ、 こういう時には…

 

『 あっ、 あ〜〜ん 』 

甲高い喘ぎ声が、耳に飛び込んできた。 画面には、裸の男女が映し出されている。

「おい! なんだ、これは!」 

「普通の番組は つまんないから、有料チャンネルに替えたの。 あはっ、こんなのやってるのね。」

「くだらん! 俺は もう出るぞ!」 

「あん、 待ってよ…。」

立ち上がり、行ってしまおうとしたベジータを、間一髪で押さえ込んだ。 

非力な わたしに何故、そんなことができたかというと、 「くそっ、やめろ!」 

「いいじゃない、 んっ、く …。」

腰を下ろしていた彼の下半身に、素早く顔を埋めたためだ。

 

頬張りながら、舌を、小刻みに動かしていく。 

すると、口内に収まっているそれは、さらに、はち切れんばかりに膨らみだす。

『 やめて… やめてよー! 』 『 いいじゃないか。 だって もう、こんなだよ。 』

TVの画面の中でも、似たような会話が為されていた。 

男女は、逆だけど…。

 

そんなことを思っていたら、 「痛いっ!!」 

髪の毛を掴まれた。

「ひどいわ、何すんのよ!」 「こっちのセリフだ。 思い知れ!」

向きを変えられ、膝を つかされ、四つん這いにさせられる。

けれど 間もなく 腕を掴まれ、強い力で引き戻された。

TVの中の男女が ちょうど、その体位の真っ最中だった。 でも それだけではない。

床がとっても熱くなっていたから、火傷なんかを、しないようにだ。

 

今 わたしは、腰を下ろしたベジータの、膝の上に座らされている。 

向き合ってはおらず、背を向けている形だ。

けど 立ち上がるのは おろか、もがくことさえ難しい。

だって 中には しっかりと、入り込んでいる。 

さっきまで この口で、舌で 愛してあげていた …

「あんまり、よくないわ。」 「… なに?」 

せめてもの、抗議のつもりで言ってやる。 

「だって。 わたしの方は、まだ だったんだもの。 … ああっ!!」

 

それに 応えるかのように、ベジータは、利き手の指を動かし始めた。

もちろん、繋がったままでだ。 

そのままで、襞を掻き分け、最も感じる部分を苛む。

彼の指の速い動きは、さっきの わたしの舌に似ている。

彼の片手は いつの間にか、わたしの胸を弄んでいる。

押さえ込まれてはいない。 

だから もう、わたしは逃げられる。 でも するはずがない、そんなこと。

「あっ、 あっ、… 」  

だって、なぜなら、わたしは自ら、腰を激しく振っているから …。

 

「あ あーーーっ!!」  

声を上げて、わたしは果てた。 ベジータも ほぼ、同時だったと思う。

TVの中の男女の声は、もう耳に入らなかった。 

ほんの短い間だけれど、わたしは気を失ってしまった。

熱気の中で、激しく動いたためだろう。 例の水風呂に、投げ込まれて気がついた。

 

ところでベジータは、水風呂には入らなかった。 

冷水のシャワーを体に当て、なんと その水を、直接 口にも入れていた。

冷えたドリンクを、たくさん用意していたのに。

 

 

寝室。 使い慣れたベッドの上で、裸の背中に頬を寄せる。

下着も寝間着も、着ける気がしないらしい。 その肌は心なしか、いつもよりも熱いようだ。

改めて尋ねる。 「あんたって、暑いの苦手だったの?」

「違うと言っているだろう。 上は50度、下は氷点下という空間で、合わせて二年も過ごしたんだぞ。」

上は50度、下は氷点下? 

「あ、それって あの、精神と時の部屋のこと?」

「そうだ。」  肯定した後、向き直ってベジータは続けた。

「あいつにも、経験させるべきかもしれんな。」 

「あいつ?」

「決まっているだろう。 トランクスだ。」

 

ああ、そうか。 そうだったわね。 

精神と時の部屋へは、もう一人のトランクスと入ったんだものね。

でもね、こっちの、わたしたちのトランクスも … 

あの部屋で、うんと頑張ったのよ。

まだ8歳の時、 あんたが この世に、いなかった時 …。

そのことは、眠る前に話そうと思う。

夫婦の寝室、ベッドの上で、もう一度だけ抱き合ってから。

 

今は、仰向けになった彼の上に、重なりながら 言ってみる。

「重力室の室温を、そういう設定にしてみる?」

「…。 上は50度までだ。 それ以上は やめろ!」