226.『日々の始まり』

はまり始めの頃にすごい作品を目にしてしまったため、

これまでIFものや他者目線しか手をつけられなかったのですが・・・

挑戦してみました。 やはり あんまり切りこめませんでしたが・・。]

大きな、大きな戦いを終えて、悟空さんや みんなと一緒に、パパが戻ってきた。

おれは うれしくて、 思わず駆け寄って、

白い手袋に包まれているパパの手を、力いっぱい握りしめた。

お父さんに抱っこしてもらってる悟天のことが、ちょっとだけ うらやましかったけど・・・

パパも、おれの手を握り返してくれたんだ。 

だから、 とっても うれしかった。

 

後ろを振り向くと、ママが立っていた。

おれと目が合うと、にっこりと 笑ってくれた。

だけど なんとなく、いつものママと違うと思った。

いつもだったら、どんなにパパが嫌な顔をしたって ちっとも めげずに、

しがみついたり チューしたりするのに。

どうして、今日に限って そうしないんだろう・・・。

 

あの頃、 自分では もう、かなり いっちょまえのつもりでいた。

でも、全然そうじゃなかったんだ。  

おれはなんにも、わかっていなかった。

 

 

夜、 寝室。  わたしたちは、いつもと同じように ベッドに入る。

そう。 何年か前から ベジータとわたしは、同じベッドで眠るようになっていた。

 

「おやすみ。」  腕を伸ばして、ライトを消す。 

「・・・。」

いつもならば その後で、わたしは彼に そっと寄り添う。 

舌打ちをされたとしても 気にしない。

逞しい肩に手を置いて、 頬に、首筋に 唇を寄せる。

不機嫌そうにしていても、払いのけられたことは 一度もない。

だから わたしは 脚を絡めて、上半身を少しだけずらして、彼の唇に、自分のそれを押し当てる。

けれども 今日は そうしない。  

ベジータに背を向けて、黙って瞼を閉じている。

 

しばしののち。 強い力で肩を掴まれ、向きを変えさせられた。

だけど、彼は 何も言わない。  何一つ、言ってくれようとしない。

仕方なく、わたしの方から口を開く。 

「ごめんね、 今日は・・・ 疲れてるの。」

彼は肩から手を離し、 わたしに背中を向けてしまった。

やっぱり、 何も言ってくれずに。

 

夜の闇の中で、わたしは考えている。  

七年前、チチさんが こう言っていた。

『せっかく 病気が治ったってのに、 やっぱり悟空さは逝っちまっただな。』 

・・・

もしも 今日、ベジータが戻らなかったとしたら。 わたしも、 同じように 思っただろうか。

七年前の戦いで、死なずに済んだっていうのに。

別の未来のわたしが せっかく、運命を変えてくれたっていうのに。

 

それでも わたしは、 そして こちらのトランクスは幸せだ。

楽しいことばかりだったわけではない。 

けれど 同じ家で暮らした、七年分もの思い出が あるのだから・・・。

 

涙がつたって落ちていく。

ベジータは もう、眠ってしまったようだ。

寝息は聞こえてこないけれど。

 

どれくらい経ったのだろうか。 まだ、夜は明けていない。

目を覚ました わたしは驚いた。 すぐそばに、ベジータの顔がある。

いつの間にか わたしは、彼の腕を枕にしながら 眠っていたのだ。

同じく 目を覚ましていたベジータに、尋ねてみる。 

「どうして、こんなふうに してくれるの?」

「・・・。 おまえは、俺の妻だからだ。」

ふうん・・。  「眠る前に わたしを抱こうとしたのも、 妻だから?」

「そうだ。」

 

わたしは あんたの妻。 だったら どうして・・・。  

喉まで出かかった言葉を、必死に呑みこむ。

その代わり、質問をした。  

「今も、抱きたい?  抱きたいって 思ってる?」

そう長くない沈黙ののち、はっきりと彼は答えた。 

「ああ。」

 

それが合図のようになり、 わたしたちは やっぱり、抱き合うこととなった。

 

もしも また 戦いに身を投じて、自分の命を投げ出すならば、せめて一言、愛していると言ってほしい。

それが嫌だというのなら、どうか 先に死なないで。

 たった一日だけでもいいから、わたしよりも長く生きて・・・。

 

心の中で訴えながら、わたしは彼に抱かれている。

窓の外は もう とっくに、夜が明けているだろう。

 

 

朝、 パパとママは、朝食の席に姿を見せなかった。

おじいちゃんと おばあちゃんは、心配いらないって笑ってた。

 

たしかに、 その後は それまでどおり・・・ 

いや、 ちょっとだけ、パパが優しくなったように思えた。

少し 正直になっただけでしょ、って ママは笑ってた。

 

パパとママのことを昔から知ってる人達からは、弟か妹ができるんじゃないかって言われたりした。

仲良くなると どうして そうなるのか、その頃はわからなかった。

実際に妹ができたのは、そういうことが わかる年になってからだ。

なんだか照れくさくって、思い切り喜んで見せてあげられなくて、悪かったなって思ってる。

それでもママも、そしてパパも、とっても幸せそうだった。

だから、おれも 幸せなんだよ。 

とってもね。