057.『寝不足』

とにかくひたすら、いちゃいちゃしている二人です(笑)。]

一度目が済んだ後。 

一旦は離れたけれども、すぐに また寄り添う。

そうせずにはいられない。 明日からは出張で、いつもより早く起きなくてはならないのに。

 

ついさっきまで わたしの中で暴れまわっていたもの、 それを、手のひらで そっと包み込む。

今は まだ柔らかく、頼りなげだとすら思える。  本当に不思議だ。 

ほんの数分前までは、あんなふうに、あんなに・・・。

 

「まったく、 どこまでも下品な女だぜ。」 

ベジータが口を開いた。 それと同時に、手が伸びてくる。

指先が わたしの体の奥にある、最も感じやすい部分をとらえて、うごめき始める。

「あ、 あん っ ・・・ 」 「イヤらしい声だな。 おまけに欲深だ。」 

「だって・・。 わたし、 さっきは、」 

「チッ・・。」  

苛立たしげな舌うちの後、指の動きが なお速くなる。

わたしの方も、負けずに手を動かしている。 手の中にあるそれは既に、熱と硬さを増していた。

 

「ねえ・・。」 「・・なんだ。」 

「競争しない?」 「何?」 

「どっちが先に、イカせられるか。 負けた方が、勝った方の、言うことを聞くの ・・っ ・・」 

どうにか、ちゃんと言葉にできた。

「フン、くだらん。」  

素っ気なく答えながらも、執拗な愛撫は まるで、やむ気配がない。 

もう片方の手はいつの間にか、胸を弄んでいる。

「ずるいわ、 こんなことしちゃ・・ 」 

あんたは もう、さっき、一度・・。 本当なら、ハンデをつけなきゃならないのよ。

 

最後までは言わなかった。 

何故ならば そうすることによって、彼の方も感じていると気付いたからだ。

今 この時、ぬるりとした液体に手を汚されているのは、ベジータだけではないのだ。

「すごい・・ 濡れてる・・。 ふふっ、 おんなじね・・。」 

「黙れ。」  水の音が響き渡る。 これは、わたしの方だ。 

「は、 あ、 気持ち、いい ・・・ 」 

声を出すことも、我慢なんて必要ない。 手の中のものは もう、今にも はち切れそうになっている。

いい勝負だと思う。 勝っても負けても、どちらでもいい。 

もしも勝ってしまったら、こう言えばいいのだ。

『もう一回して。 今度は、絶対 ・・・。』

 

「あんたも、気持ちいいんでしょ?」 「・・・。」 

「答えてよ、 ん っ ・・・ 」 重ねられた唇で、やや乱暴に 口を塞がれる。 

それから数秒ののち、彼は再び、わたしの中に入ってきた。

 

 

「すっごく、よかった。」 

一呼吸おいて、付け加える。 「大好き。」

「・・・。 誰でもいいんじゃないのか。」 「えっ?」 

「満足させてもらえるなら、相手は誰でもいいんだろうと言ったんだ。」

「えーっ、 なによ それ。」

けれど、腹はたたなかった。 これまでの経験で、もう わかっていた。 

彼はわざと、不機嫌そうに振舞っている。

 

「そんなこと、ないわよ。」 言葉を切って、ゆっくりと続ける。

「あんたじゃなきゃイヤ。 あんたじゃなきゃ、あんなふうに ならないと思うわ・・。」 

「フン・・。」

「ね、 あんたはどうなの?」 「何?」 

「えっと、さっきの勝負ね、 ほぼ同時で、引き分けでしょ?」

一気にたたみかける。 

「お互いの言うことを一つ聞いてあげるってことで、どうかしら? ・・だから、答えて。」

「何をだ。」 

「あんたも、同じでしょ?  あんただって わたしが相手だから、その、あんなふうに・・。」

 

本当は、聞かなくたってわかっている。 言葉が欲しいわけじゃない。

ベジータが どんな顔をするか、 何と言って質問から逃れようとするか。 

それが見たいのだ、多分。

 

「・・・ 寝る。」  短すぎる一言を発すると、彼は背を向けてしまった。 

「えーっ、 ちょっと・・。」 「おまえも、もう寝ろ。」 

「何よっ、ずるいわ。 ちゃんと答えなさいよ。」

「黙って言うことを聞け。 これが、俺の分だ。」 

「・・・。」 そう来たか・・。

 

まあ、自分が言いだしたことなのだから、仕方ない。 裸の背中に頬を寄せる。 

傷跡を唇で、ひとつひとつ なぞっていく。

「明日は早いんじゃないのか。」 「うん。でも いいの。 移動中に眠れるし。」 

でも そうすると、瞼が腫れちゃうのよね。

「あんたが、空から送ってくれればいいのに。 そしたらギリギリまで眠っていられるわ。」

「冗談じゃない。 俺はそんなに、暇じゃないんでな。」 

「ケチね。 あーあ、さっき あんなこと聞くんじゃなかった。 朝 送ってって、頼めばよかったわ。」

「残念だったな。」  

・・・背中を向けていても わかる。 ベジータが今、笑っているってことが。

 

こっちを向いて。 

そう 声をかける代わりに、わたしの方から、彼の向かいに移動する。

広いベッドの上だから、そんなこともできるのだ。

「今度は何だ。」  両手で、頬を包み込む。 「ん? おやすみの、キスよ・・。」

 

ついては離れる唇は 次第に熱を帯びてきて、それだけでは済みそうにない。

 

夜は更けていく。  ああ、もう、完全に睡眠不足だ。

だけど ちょうどいいかもしれない。 

明日・・ もう 今日だけど、数日の間 自宅を離れ、彼のいないベッドで眠らなくてはならない。

きっと、なかなか、寝付けないと思うから。 

 

彼の重みを感じながら、背中に きつく腕を回す。 自分の方から腰を浮かせる。 

もっともっと 深い所で、繋がりたいと願いながら。

「あんたも同じなんでしょ?」  

そう尋ねる代わりに。