164.『「どっちにしようかな」』
C.C.、夜、 夫婦の寝室。
それは、照明が全て消された、闇の中で行われることが多い。
けれど今夜は、ベッドの脇にあるライトが
ついたままだ。
薄明かりの中 ベジータは、妻の顔をじっと見つめて・・
いや、観察をしていた。
きれいに整えられた眉を寄せ、頬は上気している。
何も塗られていないはずの唇は紅く濡れて、せつない喘ぎが漏れている。
つくづく、いやらしい顔だと思う。
見られていることによって、いつもよりも興奮しているらしい。
ブルマの方も負けてはいない。 夫の表情を確かめるべく、瞼を開けようと試みた。
けれども それは、うまくいかない。
彼女がそれをしようとすると 必ず、指の動きが速さを増して、もう
何も 考えられなくなるためだ。
「ね、 お願い・・・ 」
来たか。 ベジータは、二本の指の速度を緩めた。
いつもどおり 甘えた声で、挿れて、とねだってくるのだろう。
だが、違っていた。 「もっと・・ もうちょっと、して
・・・ あ、 」
喘ぎが次第に激しくなる。
大きく開かされた両脚が いつの間にか、つま先まで
ぴん、と伸びている。
指の動きは止まっているのに、水の音が
耳に響く。
浮き上がっているブルマの腰が、不思議なリズムで動いているせいだ。
どうやら このまま、一度 のぼりつめてしまうつもりらしい。
そんな時 ベジータは、少々だが不快になってしまう。
挿れてほしいという懇願を退けて、指で苛んでやるのなら
いいのだ。
しかし これでは まるで、自慰の手助けのようではないか。
「・・・。」 手を離し、汚れた指をシーツで拭い、彼は彼女に
のしかかろうとした。
だが 遅かった。
「あっ、 あ、 あ・・・・ ん 」 甲高い声。
上体をのけぞらせて、ブルマは一人
達してしまった。
両脚を、またしても 独特の動きで、開いたり閉じたりすることを
繰り返しながら。
「うふ、 ゴメン・・。 あんまり良くって、我慢できなかったの・・。」
そんなことを ささやいて、ブルマは仰向けになった夫の唇をむさぼった。
しっとりと、汗ばんだ肌。 背丈のかわらない二人は、今
ぴったりと重なり合っている。
割った唇から、 どちらからともなく舌が差し込まれると、
交わっている時を上回るのではないだろうか・・・。
少しばかり上体をずらし、彼女はベジータの体の
ちょうど真ん中に位置する屹立したものを、
手のひらで そっと包み込んだ。
注意深く、指を動かす。 優しく、時には強めに握りしめる。
先端にある裂け目からは、透明の液が滲んでいた。
あと もう少しではちきれて、あふれ出してしまうだろう。
だけど心配は無用だった。 そうなったとしても彼は、あっという間に回復してしまう。
肝心なことをしそびれる、なんてこと
は、ありっこないのだ。
でも やっぱり、我慢できない。 半身を起こして、彼女は夫の上に
またがった。
「ん・・ んっ、 」 ゆっくりと腰を動かす。
「フン、 いやらしい顔をしやがって。」 「・・あんたの顔も、よく見えるわよ。 ・・あ!」
伸ばした両手で、胸を鷲掴みにされた。 「ちょっと、痛い・・。」
だが すぐに、壊れ物を扱うような手つきに変わる。
「あ、 ああっ・・ 」 自分の下で、胸を弄んでいる男。
その顔を もっと見てやりたいと思うのに、瞼を開けていられない。
なんだか また、先にいってしまいそうだ。 そしたら
さすがに、彼は不機嫌になるだろうか・・。
そんなことを考えていたら、片方の手が胸から離れた。
「ひっ・・ 」 つながっている個所の
すきまに、ベジータが指を差し入れてきたのだ。
その部分は、つい さっきまで、同じ指で苛まれていた。
「そんな・・ あっ、 ダメ・・ っ、」
「何がダメなんだ?」 「だって、
良すぎて ・・・ 」
もう ダメだ。 腰が、勝手に動いてしまう。
「あ、 あーーーーっ ・・ 」
がくん、と骨が抜けたようになってしまった
その時。
「くっ ・・・ 」
微かなうめき声が、ブルマの耳に確かに届いた。
そして 最奥を目がけるようにして、熱いものが注ぎ込まれていく。
事の後。 また ぴったりと体を添わせて、ブルマは夫に話しかける。
「雑誌で読んだんだけどね、
男の人って その時、奥さん以外の女の人のことを考えてることが多いんですって。」
それくらいじゃ 浮気とはいえないけど、随分失礼よね。
そう付け加えた後、質問をする。 「もしかすると、あんたも
そうだったりする?」
「・・ くだらん。」 「もうっ。
どっちなのよ。」
「・・・。」
欲しい答えは返してくれない。 けれども
傷つけるような からかいは、決して口にはしない。
この男のそんなところが、実はブルマは
とても好きなのだ。
そういう感性は、もともと持ち合わせていないのかもしれない。
だけど、 それでも。
ああ わたしは 本当に、この男に惚れているのだ。
初めて抱かれた日から もう、10年も経っているというのに・・。
「わたしには聞かないの?」 「何をだ。」
「わたしが、あんた以外の男のことを
思い浮かべているんじゃないかって。」
「どうでもいい。」 「もうっ。」 珍しく即答したと思えば
これだ。
それでも構わずに、ブルマは話を続ける。 「他の男ではないんだけど、あのね、わたしね・・
」
一旦言葉を切り、深い呼吸をする。
「昔のあんたのことを、、考えちゃう時があるの。」
「なに?」 ベジータも、反応を示した。
「乱暴で、自分勝手だったけど・・ うふっ、すっごく・・
」
最後までは言わず、彼女は ひどく照れながら、彼の胸にうつぶせる。
そのままの姿勢で、小さな声で訴える。 「ねえ、
もう一回 ・・ 」
「チッ、まったく。」
勢いよく、体勢が入れ変えられた。
今度こそ、ブルマのペースでは進まない。 終わった後はおそらく、口をきく気力もないだろう。
けれども それは、彼にとって たった一人の女であるという
何よりの証なのかもしれない。
しばらくのち、達してしまう瞬間に、彼女は夫の名前を呼んだ。
「ベジータあ・・ 」
呼ばれたのは今の自分、それとも過去の自分、いったい
どっちなのだろうか。
彼は ほんの少しだけ、複雑な気分になった。