255.『腕まくら』

[ ‘08のJSアニメツアーの新作アニメを見て、思いついたお話です。 ]

「疲れちゃったわね。 おやすみ。」

 

一言だけそう言って、ブルマは俺に背を向けた。

ベッドの端で向こう側を向いてしまった、華奢な肩に手をかける。

「・・・明日、 早いの。」

 

同じことを言いながらも、

いつもなら広いベッドの上で わざわざ体を寄せてくる。

こんなことはめずらしい。

これまでに、なかったと言ってもいい。

俺は、声をかけてみた。

「何か、言いたいことがあるんじゃないのか。」

 

「どうして、助けてくれなかったの・・・?」

黙っているつもりだったのに、とうとう口に出してしまった。

ミスター・サタンのホテルの、完成記念パーティー。

 

親しい友人や、なつかしい顔が集まる華やかな場所への、家族そろっての外出。

とっても楽しみにしていたのに、やっぱり騒ぎが起きてしまった。

巻き込まれないよう逃げる途中、

大きな落下物からわたしを救ってくれたのは・・・  夫ではなかった。

 

背を向けたまま、わたしはこうも言ってしまう。

「わたしのことなんて、忘れちゃってた?」

 

「・・・。」

 

こういうことは以前にもあった。

ベジータがもっと広い意味で、わたしたちを守ってくれているのはわかる。

この人の生い立ちを思えば、

こんなことを言って責めるのは酷だというのもわかってる。

 

だけどわたしは見てしまったのだ。

ベジータの実の弟だという、同じサイヤ人である彼が

おびえる妻の肩をしっかりと抱いて、衝撃から庇っている姿を。

 

それで・・・ なんだか、 とっても・・・。

 

その時。

ベジータが、少しだけ強い力で腕を引き寄せて

わたしを自分の方に向けた。

わたしの顔を、じっと見つめるその表情。

「なんて顔してるのよ・・・。」

少しだけ、笑ってしまった。

 

ブルマの笑った顔。

それを見て、くやしかったが俺は安堵する。

女の顔色を窺ったり、機嫌をとるなんてことは考えられなかった。

 

だが、この女が俺に背を向けて話をすると

何故かひどく不快になってしまうのだ。

 

「今度あんなことが起きたら・・・

 真っ先にわたしを助けてくれる?」

返事の代わりに俺は左腕を伸ばし、そこに頭をのせるように促した。

「じゃあ、 朝までこうして。」

そう言って、ブルマは目を閉じた。

 

目が覚めてしまった。  今、何時だろう。

すぐそばから、ベジータの静かな寝息が聞こえてくる。

次第に暗さに慣れてきた目で、彼の寝顔をじっと見つめる。

左胸に手を添えると、確かな鼓動も感じられる。

 

つくづくわたしは、ひどく欲張りなんだと思う。

こんなに幸せだっていうのに。

 

一晩中、腕をまくらにしていたら、いくら彼でもつらいだろう。

そう思って、筋肉に覆われている腕をそっと解く。

 

その時、ベジータが目をあけた。

「ごめん・・・ 起しちゃった?  もういいわよ。 腕、しびれちゃうでしょ?」

そう言って、体を離そうとすると

何も言わずに彼は再びわたしを引き寄せて、

また自分の左腕を頭の下に持ってくる。

 

わたしは胸の奥が痛くなって、なんだか泣きたくなってくる。

涙の代わりに、キスをする。

肩にきつく腕をまわして、 何度も、 何回も。

 

そして、結局、わたしはささやく。   

「ねぇ・・・ 」  「朝、早いと言ってただろう。」   

「いいの。 もう、眠らなくても。」

 

少しだけ笑いながら、ベジータはわたしを仰向けにする。

「下品なうえに、勝手な女だ。 おまけに・・・ 」

「欲張り、 って 言うんでしょ。」

向き合った彼の頬を両手で包んで、わたしは続ける。

 

「そうじゃなきゃ、あんたの奥さんは務まらないのよ。」

 

そうだな。 と答えてやる代わりに、俺は

へらず口の得意な妻の唇をふさいだ。