夕食を終えたブルマは、TVに夢中の息子と

画面を見るともなしに眺めている夫とともに、居間でくつろいでいた。

二人目の子が宿ったおなかが少し目立ち始めている。

 

そこに、アルバム数冊と写真の入った箱を抱えた母が入ってきた。

「ちょっと整理していたらね、なつかしいお写真がたくさん出てきたのよー。」

「えー、なになに? わぁー、ママだ! 

 えっ?これ悟天じゃないの? すっげー!そっくり!!」

TVそっちのけになったトランクスは、アルバムのページを次々めくる。

 

「こんなのも出てきたのよ。」

母が手にした写真にブルマは、 あっ・・ と気まずそうな顔になり

トランクスは、思わず自分の父親の方を見た。

 

それは、ブルマとヤムチャのツーショットだった。

レースのストールをヴェールに見立ててかぶり、結婚式の真似事をしていたようだった。

「ブルマさん、かわいいでしょう?」

ベジータに写真を見せる。

 

「それ・・孫くんが結婚した頃で・・・ ふざけてたのよ・・。」

ブルマの説明を聞かずに不機嫌そうに立ち去りかけた彼に

「ベジータちゃんは、ヤキモチやいてるのよね。」と珍しく 食い下がる。

 

「なら、きちんとしたお写真を撮りましょうよ。 あなたたち、お式を挙げてないんだもの。

 明日、午後からカメラマンを呼んでるの。 お父様もいらっしゃるから、参加してね。

 トランクスちゃんもね。」

 

真剣な表情と、有無を言わせない様子に

ベジータも抗議するタイミングを失い、その場はうやむやに終わった。

 

寝室で二人きりになってからブルマが言った。

「あんたが、そういうのイヤなのはわかってるけど・・・。

 今度だけ聞いてあげて。 実は、母さんね・・・。」

 

彼は妻がここ数日間、何か言いたげだったことに気づいていた。

 

「・・ううん、わたしもきちんとした写真が1枚欲しいわ。

 おなかの子ね、女の子みたいなの。

 女の子は、両親の結婚式の写真を見たがるものなのよ。  ね、お願い・・・。」

 

ベジータは返事の代わりに舌打ちをした。

彼女の瞳は、母親のそれによく似ていると思いながら。

 

 

翌日。

母によって既に、本格的な衣装よりは

幾分シンプルなタキシードとドレスが用意されていた。

それに身を包んだ二人を中心に、

ブルマの両親とトランクスが加わった記念写真が、プロの手で何枚か撮影された。

 

仏頂面のベジータに、ブルマの父は

「今日は本当にありがとう。」と、深く頭を下げた。

 

いい写真がたくさん撮れたと満足げだった母は、それから間もなく入院し

病状が少しでも落ち着いたら家に戻りたい、という希望もかなわず息を引き取った。

 

葬儀のあと、

ベジータは妻に 「・・おまえは知っていたのか。」 と尋ねた。

 

ブルマはうなずく。

「何度か言おうとしたんだけど・・ 口に出すことが怖かったの。

 だけど、こんなに早いなんて・・・。

 もう少しだけがんばって、この子の顔、見てほしかったな・・・。」

 

顔をおおって泣くブルマの肩を抱きながらベジータは、

遺影をじっと見つめていたブリーフ博士の後ろ姿を思い出していた。

あの日、皆で撮った写真の中から選んだ、いつもの笑顔の一枚だった。

 

それから程なくして、ブルマは無事に出産した。

元気な、青い瞳の、ブラと名付けられた女の子。

 

その名前は、祖母が病床で考えてくれていたものだった。

 

 

150.『家族の肖像』