あの戦いから半年余りが経って、トランクスも1歳を過ぎた。
一緒にいる時は目が離せないけれど、
運動量が多いせいなのか、寝つきはとてもいいみたいだ。
いつの間にか居間で眠ってしまった息子を抱えて、わたしは廊下を歩いていた。
向こうからやって来たベジータとすれ違う。
「寝ちゃったわ。 もう重たくて・・・ 」
聞こえるようにつぶやいてみても、代わってやろうとはしてくれない。
だけど・・・
「きゃあ、 びっくりした。」
トランクスを寝かせ終えた子供部屋のドアの外に、彼は立っていた。
「なあに? かわいいから、抱っこしたくなったの?」
ベジータは、何も言わずにわたしの腕を掴む。
「・・・トランクスのことを言ったのに。」
孫くんがいなくなってしまった、この世界。
もしかしたら、いつかひょっこり現れるかもしれない。
でも、それがいつなのかはわからない。 誰にも。
それなのにこの人は、もう用の無くなった地球に、
わたしのそばに居続ける。
自分の息子は 生まれてから一度も抱き上げようとしないのに、
わたしのことは、 今でも、 何度も ・・・
どうして? って尋ねてみたら、何か答えてくれるのかしら。
ベジータは、黙ったままでわたしの隣で目を閉じている。
眠っているのかどうかわからないけど、
その表情は、小さな息子にとてもよく似ていると思う。
もう一人、 子供がほしいな。
そしたらきっと、寂しいなんて思わない。
さよならを言う時間さえも与えてくれずに、この人がどこかに行ってしまったとしても。
だけど・・・
サイヤ人の血を引く男の子が二人じゃわたしの手には負えないかもね・・・。
そうだわ。 女の子だったら、いいのかも。
今のままでも幸せだけど、
わたし、 もう一人、 子供がほしいな・・・。
あれから10年以上の月日が流れた。
泣いた日もあったけれど、
ベジータはまだ、わたしのそばにいてくれている。
普通の父親とは違うけど、
トランクスにも自分なりのやり方で関わってくれている。
そして 今日、
わたしは生まれたばかりの小さな家族を連れて家に戻った。
「ただいま。」
居間で、ソファに掛けていたベジータに声をかける。
昨夜は一緒にいたっていうのに、朝早く 一人で先に戻ってしまった。
「ね、 抱っこしてみる?」 「・・・今は、いい。」
相変わらず、無愛想な父親だ。
だけどなんだか、口元は笑ってるみたい。
「もしかして、小さすぎてこわいの?」
「フン、 そんなわけあるか。」
「じゃあ、 こうすればいいわ。」
わたしはブラを抱いたまま、ベジータの膝の上に座った。
「何しやがる・・・ 」
バランスをとろうと、彼は両手でわたしの体を支える。
小さな娘ごと、抱きかかえる形になる。
「何やってんの?」
トランクスが、学校から帰ってきた。
「あら、お帰り。 早かったのね。 ねぇ、 写真撮って。」
「じょ、 冗談言うな。」
「ふぎゃーーーー。」 ブラが泣きだした。
「あーあ、 大声出すからよ・・・ 」
その時。
ベジータはごく当たり前のように、わたしの腕から娘を受け取った。
戸惑いの混じった表情で、それでもしっかりと、小さな娘を抱いている。
パシャッ、 とシャッター音が聞こえた。
いつの間にかトランクスが、カメラを構えている。
「よくやったわ、 トランクス。」
「おい! そいつをよこせ・・・ 」
「ふぎゃーーーー、 ふぎゃーーーーー。」
ああ、やっぱりわたしは幸せ者だわ。
昔からそうだったんだけど、 今は もっと、 もっと、 幸せよ。
245.『そっとくるんで、優しく抱いて』