[ 初期に書いたお話なので、その後のブラ妊娠話と ほとんどつながっていません。]
あの日は朝からいいお天気で、暑くなりそうだった。
なんとなく気持ちが沈んでいたわたしは、元気を出そうと新品の赤いワンピースを着た。
それに合わせたピアスを選んでしまった後で、胸元の開きと丈の短さが気になって
スカーフを巻き、ソックスまではいてしまった。
だから足元はスニーカー。
気にしたのは、もちろん人目なんかじゃない。
いつも「下品だ。」ってけなす夫でもない。
気にしたのは・・・。
あれから、もう数年が過ぎた。
ライバルしか見えなくなった夫の姿に大きなショックを受け、
まだ幼かった息子を戦いに送り出し、
たくさん たくさん泣いた日。
無欲な戦士と、周囲の機転の数々によって
絶望を乗り切ったあの日から。
わたしの背を追い越した息子を 学校に送り出した朝、 わたしは夫に声をかけた。
「赤ちゃんができたの。」
彼は、驚いたように目を上げる。
「きのう病院にも行って来たわ。 順調なら、生まれるのは来年の・・・」
わたしは言葉を切って、尋ねてみた。
「びっくりした?」
そっぽを向く。 でも、目は笑ってるみたい。
「うれしい?」
返事はない。 でも否定はしない。
この男が否定しないのは、YESってこと。
「よかった。・・・ トランクスのときは、聞けなかった。 こわくて。
わたしたちの、三人目の子よ。」
三人目? と夫は怪訝そうに聞き返す。
「ずっと言わなかったけど、わたし流産したの。
前の、大きな戦いのすぐ後に。」
たくさんの人が、夫が、わたしが、
そして地球があの時死んだ。
みんな戻ってきたけれど、ちいさな命は戻らなかった。
「もともと調子が悪くて、育たないかもって言われてたの。
わたし、すっごく若く見えるけどホントはそうでもないから。」
複雑な表情だった夫は、
おどけたわたしの言葉に 心にもないこと言うな。 って
少しだけ笑った。
そして、わたしの肩を抱いて言った。
「大事にしろよ。 タバコも控えろ。
トランクスの弟か妹で、 俺たちの子供だ。」
うん、そうね。 今度はきっと大丈夫。
戻らなかった命の分も、きっと元気に育ってくれる。
うんと 祝福されて生まれてくる。
「たくさん抱っこして、かわいがってあげてね。」
・・わたしのつぎにね。
背中に腕をまわして、耳元でそう付け加えたら、
バカ、 と今度はほんとに笑った。
191.『できちゃった!2』