244.『地上の花』

馴れ初め時期のブリーフ博士とベジータの会話を入れてみました。

ブログだけでやってた頃、そんな感じのヘッタクソな漫画を上げたことがあったんですよね。

どちらかというと父の日っぽい話なのですが間に合わなくて…。]

おじいちゃんが入院した。

自宅でも療養できるけど、本人が希望したそうだ。

 

地球一の科学者で、C.C.社の創業者でもある おじいちゃんには、

お見舞いの花が あちこちから届けられた。

高級なお店で売られていたらしい きれいな花ばかりだったけど、

病室には、ママが持ってくる花だけを飾らせた。

それは うちの庭の温室から切ってきた物で、おばあちゃんが特に好きだった花だ。

花を育てることが、お菓子作りと同じくらい得意だった、優しかった おばあちゃん。

その おばあちゃんは、ひと月半程前に亡くなった。

待ち望んでいた二人目の孫の顔を見ることは叶わなかった。

 

そう。 ママのおなかには赤ちゃんがいる。

最初の頃は つわりで そりゃあ大変で、

その後は 休んでいた分の仕事に追われて、やっぱり大変だった。

おなかの赤ちゃんは、どうやら女の子らしい。

 

ところで、今日は おじいちゃんのお見舞いに来ている。

ママが、おもに仕事に関することをぺらぺらとしゃべって、

おじいちゃんはにこにこしながら それを聞いている。

時々は、鋭い合いの手を入れたりもするけど。

そんな中、おじいちゃんがリモコンを手に取り、TVをつけた。

「え? なに? あらっ!」

そうだ。 今朝、ニュースでもやっていた。

今日は、ある遠い国で ロイヤルウェディングが行われる。

王子様の結婚式の、TV中継があるのだ。

 

とはいうものの二時間近くもある特別番組だから、

出会いのエピソードやお互いの家族の映像なんかも差し挟まれる。

画面を見つめて ママが言った。

「この王子様のお父さん… 今は王さまだけどさ、

 昔、まだ王子だった頃、父さんたちの大学に留学してたんでしょ。」

たち、というのは おばあちゃんも同じ大学に通っていたからだ。

「そうだよ。」

うなずいた後、TVを見ながら おじいちゃんは、意外な言葉を付け加える。

「もしかしたら、母さんが あの中にいたかもしれないんだよなあ。」

「? どういうこと?」

「王妃になってたかもしれないってことだよ。

 母さんは大学の頃にね、その 王子だった彼にプロポーズされたんだ。」

おれとママは同時に叫んだ。

「えーーーーっ!!」

 

「すごいな、おばあちゃん…。」

「知らなかったわ、初めて聞いた。

 父さんとのエピソードは、耳にタコができるほど聞かされたのに。」

しきりに感心している おれたちをよそに、おじいちゃんは懐かしそうに笑うだけだ。

「まあ、大昔のことだからね。」

「でも すごいよ。

 そうだ、おじいちゃんを選んだってことはさ、おじいちゃんは王子様に勝ったってことだね?」

その時。

おじいちゃんが何かを言うよりも早く、パパが口を開いた。

「おい。 俺は そろそろ行くぞ。」

 

…そうなんだ。

めずらしいことに、今日はパパも一緒に来ている。

おじいちゃんが、ママとおれに代わって答える。

「おお、そうだね。 今日は どうもありがとう。 また、気が向いたら寄っておくれ。」

そして、おれたちに向かって こう続ける。

「さあ、おまえたちも一緒に帰りなさい。」

 

「まだ早いのに…。 まあ、明日もまた来るけど。」

ぶつぶつ言いながらも、帰り支度を始めたママ。

けれど今度は、こんな提案をする。

「じゃあさ、せっかく 三人で来たんだしデパートでも寄りましょうよ。

 食事もできるし、ベビー服の最終バーゲンがあるの!」

「えー、またベビー服? どれだけ買っておけば気が済むのさ…。」

まったく、女の赤ちゃんだからって張り切りすぎだよ。

しばらくは出かけられなくなるからなんて言ってるけど、どうせ すぐに買いに行くくせに。

… 最後まで言い終える前に、ママは消えてしまった。

パパに抱えられ、病室の窓から飛んで行ってしまったのだ。

「いい加減にしろ! でかい腹でフラフラ歩き回るな。 少しは家で おとなしくしていろ!」

そんな言葉が、耳に届いた。

 

ふとTVの画面を見れば、ウェディングドレスをまとった女の人が微笑んでいる。

リポーターが、「プリンセス」としきりに口にしている。

それを聞いて おれはあることに気がついた。

「プリンセスって、王女って意味だけじゃないんだね。

 王子様のお嫁さんのことも そう呼ぶんだ。」

「そうだね。 考えてみれば、童話の何とか姫、なんてのは大体そうだものなあ。」

「じゃあ、ママもプリンセスなんだね。 パパは王子だから。」

惑星ベジータは無くなっちゃったから、パパは王にはならず ずっと王子のまま。

それでも、生まれてくる赤ん坊、おれの妹は、王女ってことになるのかな?

それには答えず おじいちゃんは言った。

「さっきの話… 君のおばあちゃんが、王子様にプロポーズされたって話ね。

 昔、ベジータくんには話したことがあったんだよ。」

「パパに? そうなの?」

 

 

おじいちゃんの話は こうだった。

今から10数年も前。

三年後に現れるという強敵に立ち向かうべく、戦士たちは それぞれのやり方で修行を始めた。

パパも もちろん例外ではなく、地球一の科学者である おじいちゃんをつかまえて、

重力室を造るよう命じた。

ナメック星という星への旅の途中、

悟空さんは宇宙船で、重力の負荷を倍増させながら激しい修行をした。

パパは それを、C.C.内で毎日行おうと考えたのだ。

 

危険すぎると、おじいちゃんは反対した。

だけどパパは、言いだしたら聞きやしない。

『わかった わかった、造らせてもらうよ。 でも使い方には くれぐれも気をつけておくれよ。

 あいにく、僕は 来月から家を空けなきゃならないんだ。』

『かまわん。 メンテナンスは あの女にやらせる。』

あの女っていうのは、もちろんママのことだ。

それを聞いた おじいちゃんは、唐突に質問をした。

『ベジータくん。 君、ブルマのことをどう思ってる?』

『? なんだと? どういう意味だ。』

『いや、君 独身だろ? 決まった相手がいないなら、うちの娘は どうかなと思ってね。』

パパは あの鋭い目を白黒させて うろたえた。

『何を言ってやがる… それに あの女には、男がいるだろうが!』

そうなんだ。

ケンカばかりしていたとはいえ、当時 ママとヤムチャさんは まだ、別れていなかった。

 

『うん、ヤムチャくんは いい青年なんだが、優しすぎるんだなあ、良くも悪くも。

 君みたいな人の方が、ブルマには合ってると思うんだよ。』

『… ふざけるな! 俺様はサイヤ人の王子なんだぞ。

 こんな遅れた、辺境の星の女などを妻にできるか!』

身分違い、と おじいちゃんは解釈した。

『うーん、確かに うちは成金だけどね、そう悪い血筋じゃないよ。

 僕の方はともかく 母さん、あ、ブルマのね。 彼女の実家は、昔からの資産家だし。』

『そんなことは問題じゃない!』

『残念ながら、王族とは関係なさそうだけどね…。

 あ、だけど学生の頃にね、彼女、ある国の王子からプロポーズされたんだよ。』

『…。』

『プリンセスの座を蹴って、僕を選んでくれたんだよなあ。

 いやー、あの時は うれしかった。』

『… 貴様、何の話がしたいんだ? それは自慢か?』

 

そう言ったパパの顔は ひどく苦々しげで、だけど口元は ちょっと笑っていたそうだ。

おじいちゃんは それを見て やっぱり、ママの相手はパパしかいないって思ったんだって。

それらのやりとりが、関係あったのかはわからない。

でも その二年半後に、おれはこの世に生まれてきたんだ。

 

その話を終えた後、おれに向かって おじいちゃんは言った。

「ベジータくんも王子だが、トランクスも 我が家の王子様だね。」

… へへっ。

照れ隠しに、TVの画面に目をやる。

「じゃあ、おれのお嫁さんもプリンセスってことだね。

 おじいちゃん、長生きしてよ。 それで、おれのプリンセスにも会ってよ。」

それは、叶わなかった。

だけど おれの妹、我が家の王女様には ちゃんと会うことができた。

 

ブラと名付けられた妹は、あの、おばあちゃんが大好きだった花の季節に生まれた。

C.C.の特別仕様の温室では季節を問わず、一年中 見ることができる。

でも、外で咲いている時期は ごく短い。

公園なんかで その花を見かけると おれは、いろんなことを思い出す。

まずは妹の誕生日、そしてパパとママのこと。

それに、優しかった おじいちゃんとおばあちゃんの たくさんの思い出が、よみがえってくるんだ。