024.『愛妻家』

「そんなこと言わないで・・ わたしとトランクスと、三人で出席しましょうよ。」

 

「あんたは、サイヤ人の王子様なんでしょ?同胞のおめでたい席には、顔を出してあげるべきよ!」

 

「孫くんの家には、お世話になってるのよ。

 トランクスが強くなったのは、小さい頃から悟天くんと 遊んでたせいもあるんだから。」

 

「ねぇ、 お願い・・・。 一緒に行きたいの。」

 

どの言葉が決め手になったのかブルマにはわからない。

しかしどうにか、渋っていたベジータに、

悟飯の結婚式に 一緒に出席することを承諾させた。

 

悟飯の花嫁はもちろん、サタンの一人娘、ビーデルである。

ハイスクールで知り合った二人は、武道を通じて愛を育み、

大学の卒業を待たずに結婚することになった。

それというのも・・・。

 

「チチさん、今日はほんとにおめでとう!」

教会での式の後のガーデンパーティーで、

ブルマは新郎の母であるチチに声をかけた。

「ありがとう、ブルマさ・・・。 なんだか、順序が逆になっちまったけど・・・。」

「なに言ってるのよ・・。うれしいことが二倍になったってことよ。」

 

ビーデルの妊娠がわかり、おなかの目立たないうちにきちんとした式を挙げさせたい、

というサタンの希望により短期間のうちに一流の会場が用意されたのだ。

歓談する来客たちのなかで、新郎新婦そっちのけで

大食いファイター並みに、空いた皿を山積みにしている男が二人・・・。

 

「・・まったく。 ギリギリまでつべこべ言ってたくせに、あれだもの。」

ブルマがあきれると、

「ベジータは、何だかんだ言ってブルマさの言うこと聞くでねえか。

 悟空さは、返事は良いんだが・・。」

チチもため息をついた。

「ふふ・・いつまでたっても、ヤンチャ坊主みたいよね。

 ベジータは、反抗期の中学生みたいだけど。」

まったくだ、とサイヤ人の妻たちは、笑い合った。

 

ほんと、チチさんもでしょうけど、

わたし、子育てが大変って思ったことあんまりないのよね。

だって、子供の父親のほうがよっぽど手がかかるんだから・・・。

 

悟飯くんは強いだけじゃなく、とっても優しくて

孫くんの代わりにチチさんの支えになって、大変だったと思うけど・・。

しっかり青春してたのね。 よかった。 ほんとに。

かわいい奥さんと、幸せにね・・・。

 

悟空に連れられてカメハウスにやって来た、初めて会った日の幼い彼を思い出し、

いつしかブルマは涙ぐんでいた。

 

 

その夜。

ベジータは、妻を抱きかかえて帰宅しなくてはならなかった。

 

「飲み過ぎだぞ。 まったく・・・。」

ベッドに下ろそうとしたが、ブルマは背中にまわしている腕を解かない。

「なんだ。」

「ベジータ・・・わたし、もうひとり子供がほしくなっちゃった。

 だって、あんなに小さかった悟飯くんが結婚して、お父さんに・・。

 トランクスだって、もうすぐかもしれないわ。」

返す言葉を探し当てる前に、ブルマは続ける。

「そんなの、無理かしらね。 わたしより年下の孫くんたちに、

 孫ができるっていうのに・・・。」

 

ベジータは、何も言わず妻を抱きしめた。

 

 

ブルマの妊娠がわかったのは、それから一月半ほど後のことだった。

順調ならば、悟飯とビーデルの子と同級生になるということで

周囲は驚きを隠せなかった。

 

ベジータは、わがままで手のかかる妻の願いを叶えてやった、と密かに、

しかし大いに満足していたのだった。