365.ステキな恋人

拍手画面のリニューアルの際に上書きされて消えちゃっていたものです。

  ベジータに過去、一人だけ恋人がいた という設定で書いてみたくて・・

でもやっぱり(笑)あんまりのらなくって、ほぼ次世代になってしまいました。]

ベジータと初めて肌を合わせてから、少し経った頃のこと。

ベッドの中で、わたしは彼に尋ねてみた。

『あんた、恋人がいたんでしょう?』

 

それは 最初の時から、なんとなく感じていたことだった。

『そんなもの・・

彼は、そこで言葉を終えた。  いない、とは言わなかった。

『どうして、一緒じゃないの?』

今度は黙ったままだ。

けれども 隣に横たわるベジータの表情が、一瞬曇ったように思えた。

『もしかして、もう 会えないの?』

答えない彼に、わたしは最後の質問をする。 一番、知りたいと思ったことを。

『どんな人だったの?』

意外にも彼は 口を開いた。

『忘れた。』  ・・・

 

『嘘よ。』  『何?』  視線をこちらに向ける。

わたしは少しだけ頭を上げて、彼の左の腕をずらす。

その頃のベジータは、わたしと一緒には眠らなかった。

いつも、 いつの間にか わたしは一人になっていた。

『忘れることなんて、できないと思うわ。』

そう言ったわたしの顔を、ベジータは じっと見つめる。

『本当に好きだったんなら、ね。』

全てを言い終わらぬうちに わたしは、彼に再び引き寄せられた・・・。

 

 

「ママが入院してた時に、教えてもらった話なのよ。」

夕方の近いC.C.の中庭。

わたしたちは そこで、遊んでいる子供たちを見守りながら話をしていた。

「ステキね・・・。」

パンちゃんは 自分の頬を両手で包んで、何度も何度もため息をついた。

「ブルマさんに恋人がいたことは知ってたけど、お義父さんにも・・。」

パンちゃんがお兄ちゃんと結婚したのは、ママが亡くなった後。

だから、ママのことはブルマさんって呼んでるの。

でも、ママもきっと、そうしてって言ったわね。

そのあと パンちゃんは、納得したように つぶやいた。

「大人だもんね。 いろんな時期があるわよね。」

 

「・・わたしは すっごく気になるわ。 いったい どんな人だったのか。」

この話を聞いた時、ママにも そう言ったの。 ママは笑って こう答えたわ。

『上品な女、だったんじゃない?』

 

「ブルマさんらしい答え方ね。」 

「・・わたしは、ヤキモチ妬きなのよ。」

頬が熱くなってくる。

「だって 今でも、悟天の最初の恋人になりたかったって思うんだもの。」

パンちゃんは、そっぽを向いているわたしの顔を 笑いながら覗き込む。

「ブラちゃん、 かわいい・・。」

「なによ。 パンちゃんは そう思わないの?」

だって、お兄ちゃんは・・。 本気で付き合ってた人はいなかったとしても。

遊んでいる子供たちに視線を戻して パンちゃんはつぶやいた。

「そうね。 だけど・・・。」

その答えを聞いて、わたしは少し驚いた。  

 

その時。  人の気配がしたと思ったら、お兄ちゃんが姿を見せた。

「やっぱり ここか。」

「トランクス。 どうしたの、こんな時間に。」

「今日は遅くなりそうだからさ、 いったん戻って顔を見に来たんだよ。」

そう言って、よちよち歩きの自分の娘をひょいと抱き上げる。

「起きてる時の顔が見られないと 寂しいからさ。」

 

その後、 うちの一番上の息子に向かって こんなことを言った。

「おい。 一緒に遊ぶのは仕方ないけど、気をつけろよ。絶対にケガさせるなよ。」

「もう。 そんな言い方ないでしょ。」

パンちゃんが たしなめる。

「わかってるよ。 だけど、・・・ちゃんは ものすごく おてんばだよ。」

息子たちも、口々に抗議している。

まったく お兄ちゃんときたら、父親になってからは いつも こんな調子なのよ。

そして、パンちゃん。 

彼女がお兄ちゃんと一緒にいる時、 それから さっきの話の答え。

『だけど、最後の恋人っていうのも、ステキだと思うわ。』

 

それは、ママが口にしていた答えと同じだったの。

わたしね、 母親になってからのパンちゃんと話していると、

ママといるみたいな気分になる時があるのよ。

不思議ね。 見た目もタイプも全然違うっていうのに。

でも、お兄ちゃんもきっと、そう思っているのよね。

わたしは言った。 「お兄ちゃんは幸せね。 よかったわね。」

照れくさいから、小さな声で。

 

ブラが言ったことは、ちゃんと聞こえていた。

だけど、照れくさいから黙っていた。

でもさ、パンには いつも言ってるよ。 主に夜、だけどね。

その時。  「悟天。」  ブラが素早く 反応する。

チビどもが 「パパ。」 「パパ。」 と騒ぎ出す前に。

 

「ただいま。 あれ、トランクス、ずいぶん早いね。」

子供たちよりも先に飛びついて来たブラを 両腕で抱えながら、悟天が呑気な声を出す。

「顔を見に寄っただけだよ。 おまえはどうしたんだよ。 ついにクビになったか。」

「ひどいなあ。 出先から直接 帰って来たんだよ。」

「そうよっ。 何言ってんのよ。」 ブラが目を吊り上げる。

「ふふっ。 悟天おにいちゃん、さっきね、ブラちゃんったらね・・

「あっ、やだ。 パンちゃん、言っちゃダメ。」

ブラの奴は、今度はパンにまとわりつく。

「お兄ちゃんが遅いんなら、うちでお夕飯を食べていけばいいわ。」

「うれしい。 用意するの、手伝うわね。」

「ちぇっ。 楽しそうだな。 予定、キャンセルしようかな・・・。」

抱き上げていた娘を芝生の上に下ろして、おれは ぼやいた。

「いっそ、パンを秘書にしちゃえば?」

おっ。 悟天もたまには いいこと言うな。 でも、その後でブラが付け加える。

「それ、 いいかもね。 子供はうちのと、まとめて見てあげるわ。」

いや、 それは・・。 悪い影響が心配だ。

「パンちゃんと わたし、一日交替なんてどう?」

・・・ イヤだよ。

 

なんだかんだ言っても 仕事に戻るおれ。 母さんも、そうだったもんな。

娘を抱いたパンが見送ってくれるけど、悟天一家まで ついてくる。

「いってらっしゃい。」

娘の小さな手をとって、振ってるみたいに左右に動かす。

すると、いきなりブラが言った。

「わたし、幸せだわ。 パンちゃんがお義姉ちゃんで。」

ちょっと驚いた顔をしたあとで、笑顔になったパンも言った。

「わたしも幸せよ。 ブラちゃんが義妹で。」

隙あらば 背中によじ登ろうとするチビどもをあしらいながら、悟天も言う。

「おれも幸せだよ。 みんな仲良しでさ。」

「トランクスは・・?」

パンの黒い瞳が、そして彼女の腕の中にいる娘の、青い瞳がおれを見つめる。

「おれも・・、 」 言いかけたけど、ブラと悟天がニヤニヤしていることに気づいて黙る。

「帰ったら、言うよ。」

「ちゃんと起きて、待ってるわね。」

パンは、今度は自分の手を振った。

 

「お兄ちゃんったら、最近 ますますパパに似てきたみたい。」

それには答えず、パンちゃんは笑った。

その笑顔は、なんだか 本当に・・・。

見た目もタイプも全然似てないはずなのに、不思議よね。

そんなことを思いながらわたしは、夕日に照らされたC.C.を見上げる。

隣を歩く悟天と、空いている手をつなぎながら。