295.『もうひとつの終末』

わたし、多分 このまま死んじゃうのね。

 

いつものようにわたしの寝息を確認して、ベジータは一旦家に戻ってしまった。

だから、朝までいて、って言ったのに。

 

でも、まぁ、いいわ。  

あの人の・・・    それに子供たちの悲しむところは、あんまり見たくないから。

 

もう体が動かないし、 目も開けられない。

なのに、思ってたより全然苦しくない。

 

これってもしかして、今までわたしがいろいろがんばってきたご褒美?

わたしってやっぱり、特別なのかしら?

 

「そういう考え方、 わたしらしいわね。」

 

誰? 頭の上に、輪っかがあるわ。

わたしと同じ色の長い髪をゆるく束ねた、わたしによく似た・・・

「わたしもブルマよ。 タイムマシンを作った方のね。」

 

えーーっ、 そうなの?

だけど、目を開けられないっていうのに、どうしてあんたのこと、見えるのかしら・・・。

 

その言葉で、もうひとりのわたしは少しだけ笑う。

「心で見てるってことじゃない?  ・・あんまり深く考えない方がいいわよ。」

 

そうね。 ほんと、ドラゴンボールを探し始めた時から

わたしの人生、思いもよらないことばっかりだわ。

それで、 どうしてここに?

 

「別の命に生まれ変わることになったのよ。

 その前に一度、会いたかったの。 幸せなわたしに。」

 

幸せ・・・  そうよね。

わたしの幸せは、あんたにもらったのよね。

あんたが、タイムマシンでトランクスをよこしてくれたおかげだわ。

 

「わたしが、そうしたかっただけだから。

 それにね、わたしもまるっきり不幸だったわけじゃないのよ。」

 

そうなの?

 

「そうよ。  あんたには無かったいいことだって、 ちゃんとあったわ・・・ 」

 

なあに? いいことって。

 

「教えないわ。 あんたになんか。」

 

ふぅん。 ケチね。

 

「ふふっ・・・ こっちのトランクスには、お嫁さんがきたわよ。

 孫の顔は、見られなかったんだけどね・・・ 」

 

そうなの・・・。 わたしも、孫には会えそうもないわ。 おんなじね。

 

「娘がいたんだから、いいじゃないの。 ・・・じゃあね、 ブルマ。

 あと、少しだけ。  少しだけ、がんばって。」

 

えっ? なによ、 行っちゃうの?

もう少し、話がしたかったのに。

ほんとにありがとう、  もうひとりのわたし・・・。

 

病室をあとにしたブルマは、あの世から付き添ってくれた占いババと共に

上空から見守っていた。

「ああ、 なんとか間に合ったわね。」

 

かつて・・・ 今でも、愛している男。

もうひとりの自分にとっては夫である男が、空を切るようにして飛んでくる姿が見えた。

 

「よかった・・・ 」

よかったわね、 ブルマ。

あんたの世界のベジータは、ちゃんと言ってくれるといいわね。

あんたがずっと、 ずーっと待ってた一言を。

 

「別人に変わる前に会いたいと言ってたのは、 

てっきり地獄にいる方のあの男かと思ったがのう・・・。」

「いいのよ、 それは・・・  もう。」

 

占いババがつぶやいた。 「おまえさん、 案外いい子じゃの。」

「そうでしょ? 頭もルックスも、性格までいいのよ。最高よね・・・ 」

 

笑顔になったブルマの、頭上の輪が金色に光り輝く。

彼女の体が、そのまばゆい光に包まれる。

 

「いよいよ、 お別れみたいね。

 ババさん、いろいろありがとね。 無理言ってごめんね。」

 

さよなら、もうひとりのベジータ、 もうひとりのブルマ。

そして、さよなら、 わたし。

 

光は、天に昇っていった。

新しい、別の命になるために。

 

「幸運を、祈っておるぞ。」

そう言って、占いババは病院の窓の方に目をやった。

 

間もなく、もうひとりのブルマの方も、天に召される時が来ようとしていた。

 

空は、夜明けの色に変わり始めていた。