342.『とろけるようなキスをして』
[ 絵師さまのイラストを見て思いついたお話です。
はっきりとした性描写がありますので、ご注意ください。 ]
深夜。
窓が開く音がする。 もう、ロックなんてしていない窓。
わたしは毛布をかぶって眠ったふりをし、胸の高鳴りと笑顔を隠す。
彼は 乱暴に毛布をひきはがして
まるで当たり前みたいに、わたしの上に覆いかぶさる。
「ベジータ、 戻ったの・・・。」 わざと、今気づいたようにつぶやく。
両手で触れた頬が冷たい。
唇の温度を確かめてから、わたしは言った。
「外、寒かったでしょ。 それに・・・ 」
彼の黒い髪に指を埋めて、鼻をひくつかせる。
「今日は特に汚れてるみたい。 ね、お風呂に入りなさいよ。」
腕を伸ばして、ライトをつける。
ベジータは舌打ちしたけれど、言い返さずにベッドから降りる。
「わたしが、きれいにしてあげるから。」
もちろん、わたしも後についていく。
「うん、 いい匂い・・・。」
バスルームで、洗ってあげたばかりの髪の匂いを吸いこむ。
「気持ちよかったでしょ?」
まるでその言葉が合図のように、ベジータはわたしの体を引き寄せる。
「一緒に入ると、いつもこうなっちゃう。」 「・・期待してついてきてるんだろう。」
「違うわ・・・ 」 それは、嘘だった。
照明のある場所で、こういうことをしていると
その最中、ベジータがわたしの顔をじっと見ていることがよくわかる。
だけど、目を合わせようとすると彼はわざと、指の動きを速めてくる。
「んっ・・・ あ ・・・ 」 「何か、言いたいことがあるんじゃないのか?」
意地の悪い言葉。 悔しくて、わたしは一気に言ってしまう。
「どうして、そんなに顔をじっと見るの? ちゃんと感じてるか、心配だから?」
ベジータは、ほんの一瞬うろたえたような顔になる。
けれどもすぐに、いつもの皮肉な笑みを浮かべる。
「いやらしい顔をする女だと、感心して見ていただけだ。」
そして・・・
言い返そうとしたわたしの腕をつかんで立たせて、後ろから両手で腰を引き寄せた。
視線の先には鏡があった。
「自分の目で確かめてみろ・・・。」
ベジータの意に反して、わたしはほとんど目を開けていられなかった。
だけど、わずかに視界に入ってきた。
鏡に映し出された自分の顔と・・・ その瞬間の、ベジータの顔。
「また汚れちゃった・・・ きりがないわね。」
内腿まで流れ出た液を、指でぬぐって小さくつぶやく。
終わったあと、崩れ落ちてしまったわたしは彼の胸にもたれている。
「ね、 キスして。」
言うとおりにしてくれたベジータの顔を見る。
明るい場所でこうしていると、彼が目を閉じていないことがよくわかる。
「キスする時は、目を閉じるものよ。」 「そんなこと、誰が決めた?」
誰がって・・・。
わたしは考えるふりをする。 そして答えた。
「恋人たち、 じゃない?」 「フン・・・ くだらん。」
そう言いながらもベジータは、ほんの少しだけ笑顔を見せる。
それは、さっきの笑みとはどこか違うような気がした。
しばらくしてから、わたしたちはようやく部屋に戻る。
ベッドの上でわたしは、また彼に抱かれている。
浴室の鏡の中にいた自分と、ベジータが脳裏に蘇ってくる。
あれは・・・ 夢中になっている顔。 お互いの、 体に ・・・
わたしには、そう思えた。
「ね、 ベジータ。」 「・・なんだ。」
好き、 という言葉の代わりにささやく。
「キスして・・・ 」
ベジータが目を閉じていたかどうかは、わからなかった。
部屋のライトは消されていたし、わたしはまぶたを開けられなかった。
唇と舌とは別のところも重なり合って、
深く、 深く、 体の奥まで入り込んでいたから。