343.『男の手』

[8月〜11月まで開催されていた、

某お祭りの美麗イラストに影響されて書いたお話です。]

未来から来たという少年の予言を受け、皆が三年後に向けて修行に励んでいた。

それぞれのやりかたで。

孫くんと決着をつけるためだけに ここに留まっていた彼も、例外ではなかった。

 

「戦闘服を作れ。」

ベジータはわたしにそう命じた。

実は、それは初めてではなかった。  

ここに来た時から彼は何度かそう言っていた。

 

地球に来た時に彼が身につけていたものには

大きな穴があいていて、もう着られなかった。

捨てた、と嘘をついたけど、わたしは内緒でそれを保管していた。

 

興味を持ってしまったからだ。 他の星でできた、見たことのない・・・ 

それはもうじき、ようやく出来上がる。

今まで、少しずつ、丹念に分析してきたのだから。

 

「なんだか背が伸びたんじゃない? ここでの食事が合ってるのかしら。」

サイズを測ってやりながら、わたしはついつい笑ってしまう。

不愉快そうに眉を寄せ、ベジータは何も答えない。

手袋とブーツも改めて作るから、一緒にサイズを測ってみる。

出会った頃より、やっぱり大きくなってるみたいだ。

「まるで成長期ね・・・。」

 

以前聞いた彼の年は、自分と変わらなかったはずだった。

サイヤ人というのは、成長の仕方が地球人とは違うのだろうか。

「そういえば 孫くんもね、

まるっきり子供みたいだったくせに、急に・・・  」

 

ふいに腕が伸びてきた。  手のひらが、わたしの口を押さえつける。

「少し黙っていろ。  貴様は、喋り過ぎだ・・・。 」

 

払いのけることができず、壁に追いつめられる。

口の端だけで笑いながら、ベジータは言った。

「貴様など、この手で簡単に殺せるんだからな。」

 

抗議するかわりにわたしは、塞がれている唇をかすかに動かす。

ベジータの表情が変わる。

 

わずかに開くことのできる唇。

短く出した舌で、わたしは彼の手のひらを味わってみた。

 

「なにしやがる・・・ 」

予想外の行動に驚いた様子で、ベジータは手を離した。

「わたしを殺しちゃったら戦闘服はできないし、

 さっきのつづきもできないわよ。」

逃れたわたしは、素早く部屋の外に出た。

 

胸が高鳴っていた。

それが恐ろしさのせいなのか、他の理由によるものか

その時はわからなかった。

 

 

そうだ。

戦闘服ができあがったのは、あれからすぐのことだったわ。

それから・・・

あの日のつづきも、確か あのあとすぐだったわね。

 

ブルマは隣で目を閉じている、眠っていない男の手を取る。

「なんだ。」   「あんたの手、きれいよね。 指も長いし。」

 

殺すことも傷つけることもしなかった。

ずっとわたしのことを愛し、苛み続けた、彼の手。

あの日を思い出しながら、唇でそっとなぞってみる。

 

「やっぱり、王子様だからなの?

 それとも、お母さんに似たのかしら・・・ 」

 

さあな、 とだけつぶやいた夫の手を両手で包んで、今度は自分のおなかに当てる。

温かさが伝わってくる。

 

そこには彼の二人目の子が宿り、生まれてくる日を皆が待ちわびていた。