218.『気に入らねえ』
ベッドに横たわった俺の左肩あたりに、いつもどおりに、すっぽりと納まる妻。
手持ち無沙汰な左手で、その髪を梳いてみる。
花か果実を模したらしい、甘ったるい香りが鼻をつき
この女と一線を越えた日のことが思い出された。
重力室の爆発事故。
俺は ケガの手当てをしていた女のおしゃべりに、何故かひどく苛立ちを覚えた。
他の男と比べるような言い方。
無意識らしいのが、余計に不愉快だ。
思い知らせるつもりで、ベッドの上に押し倒した。
泣いて怯える顔を確かめたら、警告して離してやるつもりだったが・・・。
『昼間から何すんのよ。』 『ムードとか、少しは考えてよ。』
抗議の言葉は、声にならなかった。
だって、わたしはイヤじゃなかったから。
彼の背中に腕をまわすと、包帯の感触と消毒の匂いが気になって
「ケガ、治らなくなるわよ・・・。」とだけ言ってみた。
もちろん、そんなの気にするヤツじゃないんだけどね。
女がおとなしかったのは、その最中だけのことだった。
事が済むと、けろっとした顔でおせっかいを始める。
「汗、すごいわね・・・。 傷が乾いてないから、
シャワーはまだダメなのに。 今、ふいてあげるわ。」
汗をかいたのは、力を抑えながら女を扱うことに慣れていないせいだ。
苛立った俺は、再び女を組み敷いて「貴様は、俺が恐ろしくないのか。」と尋ねた。
「・・少しだけ。」
正直に答えたのに、何が気に障ったのか 彼はさっきよりも乱暴にのしかかってきた。
「なによ、気に入らないんだったらどいて。 離してよ・・。」
ダメだ。 そう言ったベジータの顔は、もう見えなかった・・・。
結局、わたしが解放されたのは、とっぷりと日が暮れてからのこと。
二人ともそのまま眠ってしまい、気がつくと日付が変わっていたのだった。
「あの頃のあんたって、何もかもが気に入らなくて・・・。」
タバコに火をつけながら、ブルマは続ける。
「例外だったのは、ここでの食事と、重力室と、それから・・・。」
意味深な言い方にベジータは舌打ちしたが、否定はしない。
「今は、気に入ってるもの、増えたでしょう?」
しなやかな指に挟まれていたタバコを取りあげて、灰皿でもみ消す。
そして、 少しだけな。 と答える代わりに、ベジータは妻を再び抱き寄せた。