091.『嫉妬』
[筆者が初めて書きました、ベジブル馴れ初め話です。]
荒野でのトレーニングを終えてC.C.に戻ったベジータは、自分の目を疑った。
居間のソファに寝そべる息子に、
妻がキャッキャと笑いながら覆いかぶさっていたのだ。
「そんなに怒らなくてもいいでしょ。 トランクスがかわいいから、チュッてしただけよ。」
「あいつは、もう赤ん坊じゃないんだぞ。 あと何年かしたら・・・。」
言い争う二人は、かつて未来からやって来た、
たくましい長身の青年の姿を思い浮かべた。
「それはそれで・・・。 ガールフレンドができた時の練習になるじゃない?
あんまりヘタくそじゃ、かっこ悪いわよ。」
妻の言い草に腹を立てながら、ベジータはあることを思い出していた。
重力室が爆発した。
人造人間の襲来と、カカロットとの勝負に備え、トレーニングを積んでいた頃のことだ。
爆風をまともに受けた俺は、短い間だったものの、起き上がれないようなダメージを受けた。
数日後。
「これでもう、完治すると思うから・・」と、女がうるさく言うので包帯を換えさせた。
無駄なおしゃべりには無視を決め込んでいたが、
女の髪から漂う甘ったるい匂いに息苦しくなり、つい口を開いてしまった。
「メディカルマシンがあれば、こんな原始的な手当てなど必要ないんだ。」
「そうね・・。わたしも見てみたかったわ。 わたしだって、ナメック星に行ったのにね。」
いつもやかましい女の表情が曇った。
最近、姿が見えなくなった男のことを思い出したらしい。
言いようのない不快な気分がこみあげ、俺は言った。
「フン、あんな中途半端な男・・・。 今度はもう少しましな奴を見つけるんだな。」
女は怒らず、泣き出すこともなく呟いた。
「16の頃から一緒だったのよ。 あんたにはわかんないわ。」
その言葉を聞いて、頭に血がのぼるのを感じた俺がとった行動は・・・
まるで説明がつかない。
唇を離して開放してやると、驚いた顔をしながらも女はこう言いやがった。
「あんた、キスしたことないの?」
わたしは、思いがけない事態に混乱しながらも
「もっと優しくしなきゃダメよ。 こんなふうに・・・。」と、
彼のほおを両手で包んで、軽く口づけをした。
意外に柔らかなその感触を、確かめるように数回繰り返した後、照れ隠しに
「なんだかやりやすいわ。 背の差があんまりないせいかしら・・・。」と、茶化した。
怒って払いのけるかと思ったのに、彼の行動は正反対だった。
余裕のないその様子に、わたしは抗議の言葉を失って、
「ケガ・・・治らなくなるわよ・・・。」とだけつぶやいた。
「あんたって、姿だけじゃなくって、そういうところも全然変わんないのね・・・。」
同じことを思い出した夫婦はいつの間にか仲直りをし、妻は含み笑いをした。
あの時と同じ、甘い香りのする髪を指で梳きながら、夫はフン、とだけ言った。