みんな、気がつかないの? ここにいる誰も、気付いてないの?

 

ボクは気付いた。

あの 未来から来たという少年の、サラサラしたすみれ色の髪は、

出会った頃のブルマさんにそっくりだ。

(今は 強いウェーブをつけていて、ここ何年かは色も変えているけど。)

 

タイムマシンを作れるほどの科学力。

お店には売られていないC.C.のマーク入りのジャンパー。

そしてボクの耳はとらえてしまった。

「おまえの母ちゃんって・・ブルマか。」

 

悟空の、驚いた声を。

あの場にいたピッコロのように、2人の会話までは聞き取れなかったけれど。

父親がサイヤ人であるというなら、相手は1人しか考えられない。

 

ヤムチャ様も、ホントに気付かないの?

そんなことあるはずないって、高をくくっているから?

 

 

ある日、重力室が大爆発した。

悟空に差をつけられて焦ったベジータが、無茶な使い方をしたせいだ。

さすがの彼も重症を負い、意識をなくした。

血の気を失い、目を覚まさないベジータを見て、ブルマさんはひどく取り乱した。

 

ヤムチャ様も、このころには気付いていたようだった。

だけど問いただすことは、認めてしまうことは、できなかったんだ。

 

ボクは ベジータの病室にしている部屋の窓の外から、様子を伺ってみた。

 

ベッドがからになっている。

看護疲れからか、机にうつぶせて眠っているブルマさんの傍らに

ベジータが立っていた。

彼は手を伸ばして、彼女の髪に触れた。

 

戦闘の時には恐ろしい気を発するというその手で、

彼女を起こさぬように、 そっと、 優しく、触れていたんだ。

 

ベジータが部屋を出て行ったのを見て、ピンときたボクは食堂へ向かった。

 

今日はブリーフ夫妻は出かけている。

ボクは夫人に、ブルマさんのお母さんに変身した。 

もちろん しゃべり方も真似をする。

「あら、ベジータちゃん、起きられたの? 大丈夫? お食事できる?」

返事をせずに ベジータは食卓の席についた。

 

夫人の姿のボクは、自動調理器と給仕ロボットを駆使して、

たくさんの料理をテーブルに並べた。

それを彼はものすごい勢いでたいらげていった。

 

空腹が満たされた今なら、いくらか機嫌がいいかもしれない。

ボクは思い切って尋ねてみた。

「ブルマさんは、あなたのことが好きみたいね。

 あなたはどうなの?ブルマさんをどう思ってる?」

 

ベジータは目を合わさずに答えた。

「くだらん。 俺はそんなことに興味はない。」

予想通りの答えだった。

 

「あなたが興味あるのは、戦うことだけ?

 悟空・・・ 孫くんを倒したら、それからどうするの?

 周りの人を皆殺しにして、ひとりぼっちになりたいの?」

 

彼の表情が変わったことに気付いたけれど、もう止まらない。

「戦闘力とやらが高かろうが、赤ん坊の時は1人では生きられなかったはずよ。

 あなただって、ご両親のおかげで・・・」

「黙れ。」

 

殺される。

本当に、本当にそう思ったけれど、ベジータは何もせずに立ち去った。

 

その後姿は、なんとなく寂しそうに見えた。

 

この人は、怖いけど、価値観が全然違うけど、悪人ではないのかもしれない。

ブルマさんはきっと、ずっと前からわかっていたんだ。

 

その時は気付かなかったけれど、ヤムチャ様はこの会話を聞いていたらしい。

その晩、ボクにこう告げた。

「ずっと考えないようにしていたけど、

 ブルマにこれからどうしたいのか、 ちゃんと聞いてみようと思う。」

 

数日後。  ヤムチャ様とボクは、C.C.を出て行くことになった。

 

ブルマさんは、泣きはらした目をして、それでも笑顔で見送ってくれた。

優しい、きれいな笑顔だった。

 

ボクは、ブルマさんだったら、って思ってたんだ。

ずっと、ずっと昔から。

 

2人の赤ちゃんのお世話をして、一緒に遊ぶこと。

それがボクの夢だった。

 

 

あれから、ずいぶん時が流れた。

ヤムチャ様のパートナーは今でもボクだけだ。

 

今日は ブルマさんの2人目の子供が生まれたお祝いを言いに、

久しぶりにC.C.を訪れた。

 

「うわー、ブルマにそっくりだな。」 ヤムチャ様が言った。

「でもね、ふとした表情が、ベジータに似てると思うのよ。」

 

ブルマさんは幸せそうで、相変わらずきれいだった。

そして、やっぱりベジータは姿を見せない。

 

「ベジータさんのお母さんに、似てるのかもしれませんね。」

 

相当に気の強い美少女になるであろう赤ん坊を見つめながら、ボクは言った。

068.『プーアルは見ていた!』